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会いたくて(19)の続きの別バージョンを用意しました。Aが付いている番号順に読んでください
SIDE REN
----彼女の母親は「最上冴菜」。父親は「西京セラミクスの不破社長」。最上さんは、母親の失踪直後に・・・恐らく合意のない関係によって・・・この世に生を受けた。俺には、それ以外の可能性を考えることができなかった。
ショールを羽織って戻ってきてから、最上さんはいつも通りだった・・・少なくとも表面上は。でも、彼女は俺に明かしてくれたじゃないか。
(ずっと母に憎まれていると思ってた)
多分、彼女は自分の出生を知っている。彼女にとっての母親は『失ってしまった大切な人』。その母親が手掛けたジュエリーを不意に手に入れてしまったら・・・喜ぶ?それとも?・・・俺は(彼女は今、何を思っているのだろう?)そう考えるだけで自分の胸が痛むのを感じた。
***
レセプションの終了時間も過ぎ、残っているゲストもあと僅か。俺は彼らに挨拶をしながら、彼女の方へ向かう。
「今夜はありがとう・・・疲れただろう? ここはもう良いから、部屋に戻ろう」
返事も聞かず、彼女を会場から連れ出す。
「あ、はい・・・私・・・今日は本当に疲れました・・・。」
そう言って、疲れていることを素直に認め、力なく笑う。母親のブローチを手に入れたことは、彼女にとって喜びとは違う気持ちを喚起させたようだ。
「そうだね・・・今日は早くお休み?その格好は「肩がスースー」するんだろう?風邪をひいてしまうから、直ぐにお風呂に入って体を温めて・・・いくら自分のドレス姿が気に入ったからって、「自分撮影会」なんて始めちゃだめだよ?」
「もう!私はナルシストじゃありませんから!そんな事しませんよ!!」
すこし、最上さんに明るさが戻って安心する。
「とにかく、早くお休み?」
そう言って、俺は彼女を部屋に送り届けた。
SIDE KYOKO
父と出会う前に母が作ったブローチ。清野さんは、
(『冴菜』は20年以上前、数十点しか作品を作らなかったけれど、高い技術と繊細な感性を兼ね備えた不世出の彫金師と言われていているのよ?)
と言った。ブローチは良く見ると、細かい細工が幾重にも施されていて・・・確かに、同じような品は他に無いのだと感じる。冴菜の作品は・・・持ち主が手放さないから市場にも出ない、知る人ぞ知る名品なんだそう。
母は父のせいで、天職だったジュエリーデザインをやめ素生を隠して生業として小説を書き始めたんだ。『京子』以上に『冴菜』は人々の称賛を受けるはずだったのに・・・母は私の事を愛してくれたと手紙にしてくれたけど・・・父を許したとは一言も書いていなかった。
----私は父の娘であることが本当に悔しい。
私は、母のブローチを眺めながら思考の小部屋で膝を抱えていた。
***
----プルルルル
部屋の電話が鳴って、意識が急浮上する。
「Hello」
「あ、最上さん、まだ起きてた?」
敦賀さんからの電話だった。
「ええ。どうしたんです?」
「・・・少し話ができないかと思って。今、大丈夫?」
時計を確認すると、PM10:00だった。部屋に戻って1時間程、経ってしまったらしい。
「ええ、大丈夫です」
「そう?それじゃ・・・」
そこまで言うと、電話が切れてしまった。
(あれ?)
受話器を一旦置いて、こちらか掛けなおそうか?それとも掛かってくるのを待とうか?と思っていたら、いきなり、部屋のドアから敦賀さんが入ってきた。
「こんばんは、失礼するよ?
最上さん、駄目じゃないか、ドレスを着っぱなしで。ちゃんと直ぐにお風呂にはいって寝るように言ったのに。あーあ、体もこんなに冷えてる」
そう言って、ギュッと抱きしめられる。最初は、私はいきなり部屋に入ってきた彼に、ただ声もなく唖然としていたが、
「な、な、なんでいきなり部屋に入って来られるんですか~!非常識です~!」
思わず、叫んでしまった。
「ちゃんと、まず電話したし?俺の持っているキーはマスターキーだから、どの部屋でも出入り自由だし・・・」
「と、とにかく、離してください~!!」
私がジタバタしていると・・・
----ぐ~きゅるるる
私の・・・おなかが・・・盛大に自己主張をした。ああ・・・なんてタイミング。
***
部屋には、ルームサービスのサンドイッチとお茶が運び込まれている。
レセプションは立食パーティーの形式で、それは豪華な御馳走が並べられていた。でも私は、レセプションの開始直後にはゲストの相手に追われていて、用意されていた食べ物に殆ど手をつけることができず、清野さんと話してからは、食欲自体が湧かなくて・・・結局、何も食べていないに等しかった。
「くすくす・・・お腹、すいているんだろう?さぁ、召し上がれ?」
敦賀さんが、やけに楽しそうに私を眺めている。さっき、お腹のスリップ音を聞かれてしまって
(君は・・・着替えもせず、お腹が空いているのに食事もせず・・・ずっと、何をしていたんだい?)
そう問われ「母のブローチを眺めていました」に代わる言い訳をグルグル探していたら、
(さぁ、まずはバスを使って?俺は、ルームサービスを頼んでおくから、さぁさぁ)
と半ば強引にバスルームに連れていく敦賀さんに「あなたが部屋にいるのにお風呂になんか入れません!」と言うべきタイミングを失って・・・そうです、はい、男の人を部屋に入れ、お風呂を頂いた状態ナノデス。
「どうしたの?食べないの?」
そう言われて、ハッとする。
「あ・・・あ、頂きますね?うん、とてもおいしいです」
(それにしても・・・話って何かしら?)
そう考えて、ある可能性に思い至り・・・私は手に持っていたサンドイッチをボトリと落としてしまった。
会いたくて(19)の続きの別バージョンを用意しました。通常版「会いたくて」を19まで復習(?)されてから、続きをどうぞ~。蓮社長が純愛を捧げつくす予定なので、甘~い、の意味を込めてAを付けました!!
SIDE KIYONO
私の付けていたブローチを見た瞬間、最上さんが目の色を変えた。私と会話をしている時にも、時々チラリと見ているのが分かる。
(もしかして、これが『冴菜』シリーズだって気がついたのかしら?だとしたら・・・流石だわ)
しかし、この最上さんという秘書の方、なんて感じの良いお嬢さんなのかしら?単に私と趣味が合う、という事を除いても、お話してる相手を和ませる不思議な方。なんだか昔からの友人と話しているみたい。敦賀社長の、最上さんに対する態度が他の女性と接する時と明らかに違うのも頷ける。「彼は最上さんを本気に妻にと望んでいる」私はそう確信した。
だからこそ、いつまでも結婚しないウチの息子が、こんなお嬢さんを連れてきてくれたら・・・と思わずにはいられない。思わず、ついと愚痴をこぼしてしまったら・・・最上さんが動揺している。まだ結婚のお話が整っていないのかもしれない・・・。
(ちょっと、まずい・・・かしら?)
敦賀社長はこうと決めたらやり遂げられるタフさを持っている以上、目の前にいる彼女が未来の敦賀夫人になる可能性は極めて高い。でも邪魔をするような事はあってはならない、だって「敦賀」は決して機嫌を損ねてはいけない相手。先程まで、純粋に趣味の話をしていたけれど、頭を切り替えなくてはならない。
私は「彼女の心を掴むためなら『冴菜』を差し出そう」と思った。もちろん私も彼女を気に入ったし、『冴菜』の価値がわかる彼女だから、と言うのが大前提。最初、最上さんはブローチを受け取れないと固辞していたけれど、『冴菜』の名前を出したら、急に態度が変わった。まるで何かのスイッチが入ったかのように、素直に、
(頂戴してもよろしいでしょうか・・・?)
と、受け取った。彼女がブローチを大事そうに、本当に大事そうに手に包み込む・・・その手が震えている?
----『冴菜』のデザイナーの名前は『最上』冴菜だったわ!!
突然、20年以上前に失踪してしまった旧い友人の顔を思い出す。
さらに・・・私は目の前の敦賀社長の想い人が、こうであって欲しくないという『最悪ケース』の張本人の面影を持っている「事実」に、嫌な汗が背中をつつっ、と伝わるのを感じた。
SIDE REN
(えっと、恋愛小説はハッピーエンド、の意味はですね・・・これから始まる・・・敦賀さんと私の恋物語が幸せな結末を迎えたらいいな、っていう喩えのようなもの、でして・・・)
目をふよふよと泳がせながらも、彼女が確実に俺の欲しい言葉を紡いでいる。
「俺の気持ちを受け取ってくれるんだね・・・?」
そう確認する俺に、小さく頷いてくれた最上さん。彼女を腕に抱きしめると、俺の胸の奥底から愛おしさが溢れだしてくる。
----絶対に幸せにするよ。
***
レセプションで彼女に目を付ける不埒な輩がいたら排除する----。
それ程に、今の彼女の美しさは突出している、と俺は思った。だから、自分のゲストの相手をしながら、別のゲストの相手をする最上さんの様子も目の端に捉えていた。今のところ、彼女の美しさを賞賛の目で眺める人間はいるものの、彼女に色目をつかう輩はいないようだ。それに今は清野さんと話している。彼女は聡い人だから、まず大丈夫・・・と思っていたのに、最上さんの様子が何か変だ。俺は、目の前のゲストとの話をうまく切り上げ、彼女の所へ向かった。
「難しい芸術論ばかりだと、お疲れになりませんか?」
そう俺が声を掛けると、
「「敦賀社長・・・」」
最上さんだけでなく、二人とも、明らかに様子がおかしい。最上さんは良く見ると僅かに震えているようで、清野さんは俺の顔をみて青ざめている。
(何があった?)
すこし険しい視線を清野さんに向けると、
「最上さんは、少し体が冷えたらしいから・・・温かい飲み物でも頂いた方が良いんじゃないかしら?」
そう言って「あちらに貰いに行きましょう?」と、彼女の視線をバーカウンターの方へ誘導しながら、顔だけはくるりと俺の方を向いて、
----あ・と・で・は・な・し
と口の動きで意志を伝えてきた。俺は頷いて、最上さんの肩を抱き、
「本当だ。最上さん、君はさっき「肩が少し冷える」と言ってたよね。少し震えているようだし・・・ちょっとお茶でも飲むかい?」
そう言うと、
「・・・いえ、ホストの人間が悠々とお茶を飲んでいるなんて・・・いけません。私なら大丈夫ですけれど・・・ちょっとショールを取ってきてもいいですか?」
「もちろん」「それが良いわね」
そう言って、彼女を見送った。
***
俺は支配人に最上さんが戻ってきたら声を掛けるように伝え、清野さんとレセプション会場であるメインダイニングの隣、TEMPURA-KYOTOの中に移動した。
「それで?何があったんです?」
ついつい口調が厳しくなる。
「私が身につけてきたブローチを、最上さんがとても気に入ったようで・・・私、彼女にプレゼントすると言ったんです。最初は彼女、貰えないと断っていたのですけれど、それが『冴菜』シリーズと呼ばれる作品だと教えると、急に受け取って・・・しかも様子が明らかに変になって。『冴菜』シリーズの作者は、最上冴菜さんっておっしゃるオーダーメイド専門のジュエリーデザイナーなの」
「最上・・・?」
「そう、私・・・あの様子だと、最上キョーコさん、冴菜さんと・・・無関係じゃないと思うの」
「・・・」
そこで、驚きの事実を聞くことになる。
「でも、冴菜さん・・・今から23年前、ある日突然、失踪してしまわれて。何か事件にでも巻き込まれたか、自殺でもしてしまったんじゃないか、と当時は疑われたんですけれども・・・結局は良く分からなくて。でも私は親しくさせて頂いていたから・・・実は相談されていたの、彼女がその少し前から・・・とある既婚男性に愛人にならないかと誘われて困っているって。
-----似ているのよ、最上さん・・・その男性に」
ここまで聞いたら、考えられるシナリオは一つ、だ。
「で、誰なんです?」
「・・・私が話したということは黙ってて頂ける? 西京セラミクスワークスの不破社長よ」