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会いたくて(21K)

(鬼畜+甘々)÷2 な感じで、全然大丈夫です。


SIDE KYOKO

敦賀さんが私を無理やり抱こうとしている、そう思ったら吐き気がした。母は人としての尊厳を奪われ犯された。

----まさか、母と同じ事を自分がされるとは

でもすぐに・・・本当は全然違う事に気がついた。母を襲った不幸は母にとって避けることは難しく、母に非はなかった。一方、自分は・・・自業自得。私は、敦賀さんが私を一途に想っている事を知っていたのに、彼を深く傷つける言葉を投げつけて、怒らせた。

(・・・ごめんなさい)

敦賀さんに謝ろうと思ったけれど、口に押し込まれたタオルのせいで声が出ない。それに敦賀さんは、なんだか焦点の合わない暗い瞳で私を見下ろしていて、私の言葉が届くようにも思えなかった。

----私は・・・この美しい人も『失って』しまうんだろうか


SIDE REN

俺は最上さんを大事に大事にして、何ものからも守ってあげたいと思っていた。
彼女が何を喜び、何を悲しむのか、慎重に探り、彼女の気持ちに寄り添ったつもりだった。

----彼女が俺の気持ちを受け入れてくれた・・・!

と、俺を狂喜させておいて、直ぐに絶望の底へ叩き落とすような真似をした彼女が許せなかった。最上さんから次々と投げつけられる拒絶の言葉に、俺の中で何かが切れた。心が手に入らないなら、せめて体が欲しい。そう思う俺を、

----彼女はまるで汚い物を見るような眼で見て、ヘドを吐いた。

気がついた時には・・・彼女を縛り上げていた。

とりあえず、今から彼女に俺がどんなに君を望んでいたか、思い知らせよう。それから・・・どうしてくれようか・・・このまま、どこかに監禁して、俺の子供を産ませるのも良いかもしれない。そうだ、彼女を閉じ込めるために、窓の無い家を建てさせてよう。

そんな薄暗い計画を立て始めた俺の前で、彼女が大きな瞳からポロポロと涙を流して震えている。そんなに、怯えて・・・俺を怒らせた君が悪いんだよ?そうつぶやいて彼女の喉元に喰いついた。すると、微かな、花のような香りが鼻腔を刺激する。

----『京子』の香り・・・だ

急速に頭が冷えるのが分かった。

(体だけ手に入れたって、何の意味もない、今すぐ彼女を開放してまた一からやり直せ!)

そう、理性が俺に号令をかける。慌てて彼女にバスタオルをかけ、口に押し込んだタオルをそっと外す

「ご・・・めん・・・なさい」

聞こえてきたのは謝罪の言葉。許しを乞うべきは俺なのに・・・彼女の腕を拘束していたタオルを解くと、縛り上げられていた手首は赤くなっていて、強く握りしめただろう・・・手の平には爪が食い込んだ傷ができていた。

「すまない・・・」

彼女の体を開放する。すぐに逃げ出す・・・そう思っていたのに、彼女は自ら俺の胸に飛び込んできた。

「敦賀さんを傷つけて、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」

俺は・・・強く彼女を抱きしめた。


***


俺たちは、服を着てメインキャビンに戻り、暖かいお茶と軽食を取って、お互いに落ち着く事にした。

「ごめんなさい・・・私・・・敦賀さんの気持ちは全部知っているくせに、自分からは肝心な事は何も言わないで、八つ当たりしてしまいました」

そういって、最上さんは、ふるっと身震いをする。

「清野さんに・・・母が作ったブローチを頂いたんです。母はジュエリーデザイナーだったんです」

彼女の態度が急変した理由が理解できた気がした。彼女が「もうこの世の人ではない世界最高のジュエリーデザイナー」と言ったのは、母親のことだったんだ。母親の事が絡むと・・・彼女は感情を上手くコントロールできなくなるみたいだ。

「分かった・・・今度から言葉に気を付ける」

そう言うと、彼女は頭をふった。

「私が何も言わないから・・・敦賀さんに気を付けようがありません」

「それでも気を付ける。それに、もう絶対に君に怖い思いはさせない」

そう言うと、うるうると瞳を潤ませ始めた。

「仲直り、しよう?おいで?」

そう言って彼女に向かって腕を広げてみる。
一瞬、驚いた表情をした最上さんが程なく俺の腕に収まった。柔らかくて、優しい香りがする。俺は胸が奥をぎゅっと何かに掴まれるような感覚に襲われ、次にそこを中心に暖かいものが、じんわりと溢れて来るのを感じていた。

「俺たちは、まだ始まったばかりだろう?喧嘩をして・・・仲直りして、そうやって少しつづ分かりあえばいいんだ」



SIDE KYOKO

敦賀さんがしばらく焦点の合わない暗い瞳で私を見下ろしていたけれど、

(俺を怒らせた君が悪いんだ・・・)

そう呟いて私の喉元に軽く噛みついてきた。私は、次に起こるだろう事を予想して身震いしたけれど、敦賀さんが顔をあげ・・・目があった時には・・・彼の瞳に明るい光が戻っていた。

バスタオルを私にそっとかけて、口のタオルを優しく外してくれる。

「ごめんなさい」

やっと口にできた謝罪の言葉。この美しい人を失わずに済んで良かった・・・と、彼に手を伸ばした。

母は父の影を超えて私を愛してくれた。私も・・・私の中にある「母を苦しめた父」の影を超えていきたい。ちゃんと、男の人を愛せるようになりたいよ。


***

敦賀さんと仲直りということで、さっきからずっと、抱き合っている。

「そろそろ離れませんか?」

「ん~?」

生返事しか帰って来ない。

「えっと、色々お話したい事があるんですけど・・・」

「このまま聞く」

「すっごく大事な話なんですよ?」

「なおさら、このまま聞く」

しかし・・・何から話したらいいんだろう。
全部が繋がっていて、一つ話せば次々と話さなければならない。今から直ぐに全てを話す覚悟は・・・うーん。それに、例えば『京子』か書いたなら、上下巻に分れてしまうような、長い話をしなければならない。そこで、ふと思う。書いてみようか、と。

「やっぱり、話すのは止めます」

そう言うと、敦賀さんの体がビクッと揺れて、体を離された。

「聞きたい」

「でも話すのは止めて、書こうと決めちゃいましたから」

「?」

敦賀さんが、要領がつかめない、って顔をしている。

「でもまず、一つだけお話します。その前に、謝らなきゃならないのかな・・・?」

「??」

「でも、私が謝罪すべき立場に立ったのが、いつの時点からなのか・・・良く分からないし・・・」

「さっきから・・・どうした?」

これ以上、敦賀さんを困惑させちゃいけないっ!

「この件に関する、質問は一切受け付けません!抗議も受け付けません!良いですか?良いですよね?男なら小さな事は気にしないでくださいね!!言いますよ!!!」

「あ・・・うん」

私は、戸惑う敦賀さんを、勢いで押し切った。

「小説家『京子』の本名は「最上冴菜」といって私の母です。母が亡くなってからの『京子』は私でした!!」

会いたくて(20K) 

蓮が少々鬼畜風味です。というかキョーコさんがヒドイ?? 甘々風味は鬼畜風味を書いたのち、ここから分岐する形で書くかもしれません。なので、とりあえず、番号に鬼畜のKを付けてみました。

良かったら、感想を聞かせてください。
鬼畜だよ!ひどいよ!!と思われるのか・・・最後がハッピーエンドなら、これくらいはメリハリついて良いんじゃないの?とか・・・ちょっと気になります。


SIDE REN

レセプションが終わって最上さんに声を掛けた。

「お疲れ様、ありがとう」

さりげなく引き寄せてみれば、彼女はどこか上の空で

(ええ、疲れました。今夜は本当に・・・)

と言って、部屋に引き籠ってしまった。本当は・・・彼女に気持ちが届いたのだから・・・俺は彼女の側に居たかった。でも「疲れた」を、繰り返す彼女の側に居座ることも躊躇われた。清野さんに紹介した時には特段おかしなところは無かったのに・・・彼女は明らかに変だった。

「どうした?何か清野さんに言われた?」

と聞いてみても、

(清野さんはとても素敵でお優しい方でした・・・。日本に帰ったら彼女のお店に食事にいく約束をしました・・・)

という。

「じゃぁ、その後に話をした誰かに何か?」

と聞いても、

(いえ特に。私も英語があまり得意じゃないので、緊張して気疲れしただけです)

俺には何が彼女に起こったのか全く見当が付かず・・・でも何かあったのは確実で・・・彼女の事を考えて眠れぬ夜を過ごした。


SIDE KYOKO

父と出会う前に母が作ったブローチ。清野さんは、

(『冴菜』は20年以上前、数十点しか作品を作らなかったけれど、高い技術と繊細な感性を兼ね備えた不世出の彫金師と言われていているのよ?)

と言った。ブローチは良く見ると、細かい細工が幾重にも施されていて・・・確かに、同じようなブローチは他に無いのだと感じる。冴菜の作品は・・・持ち主が手放さないから市場にも出ない、知る人ぞ知る名品なんだそう。

母は父のせいで・・・天職だったジュエリーデザインをやめ、素生を隠して生業として小説を書き始めたんだ。『京子』以上に『冴菜』は人々の称賛を受けるはずだったのに・・・母は私の事を愛してくれたと手紙にしてくれたけど・・・父を許したとは一言も書いていなかった。

----私は父の娘であることが本当に悔しい。

「最上さん?」

声をかけられ、ビクッとする。今、私と敦賀さんは帰国の飛行機に乗っている。私は昨日から自分の殻に閉じ籠ってばかりだった。

「大丈夫?なんだか、朝から心ここにあらずな状態なんだけれど・・・
まだ昨日の疲れが抜けない?俺が無理を言ってレセプションに出てもらって、ごめんね?」

と謝られる。

「あ、いえ。心配させてごめんなさい」

私も謝る事しかできない。そうすると敦賀さんが私を引きよせて抱きしめてきた。

「何かあったんだろうけど・・・何か俺にして欲しい事があったら何でも言って?」

とてもやさしい声で囁く。

(私を・・・母と、母の愛する人の子供として生まれ変わらせてほしい)

無理難題が思い浮かぶ。

(かぐや姫も真っ青よ・・・)

小さく呟いた私の言葉が、敦賀さんに聞こえたらしい。

「『蓬莱の玉の枝』が欲しい、とか?最上さんのためなら、世界最高のジュエリーデザイナーを呼んで作らせるよ?幻のように美しい玉の枝を俺から君に贈らせて?」

この言葉が・・・私の神経を逆撫でした。


SIDE REN

昨日から様子のおかしかった最上さんが

「かぐや姫も真っ青よ・・・」

と小さく呟いた。何を意味しているのか分からなかったけれど、かぐや姫が公達にリクエストした宝物・・・その中で、彼女が好きそうな物が一つある。それは『蓬莱の玉の枝』。だから俺は、あまり考えなしに言ったんだ、彼女が喜ぶと思って。なのに、

「私、そうゆう、いかにも金持ちらしい、自分本位な発想が大嫌いなんです!」

彼女が俺の腕を振り払い立ち上がる。俺は突然彼女の様子が変わった意味が分からなかった。

「何をそんなに怒っている?」

「敦賀さんが最高のジュエリーデザイナーを呼ぶ、なんて軽々しく言うからです!」

確かに俺はそっち方面に最上さんほど詳しいわけじゃない。

「それは物の例えであって、君のためなら費用を惜しまないっていうつもりで・・・」

「だから。私の欲しい物はお金じゃ買えないんです!私が知る最高のデザイナーはもうこの世の人じゃないんです・・・作品だって殆ど残ってなくて・・・」

「ごめん・・・」

俺はまた謝った。

「俺は君の心が欲しくて・・・君に愛されたくて・・・そのために俺に出来ることはしたいだけで・・・」

「・・・」

無言で目に涙を溜め始めた最上さんを見て、俺も立ち上がり最上さんをもう一度抱きしめる。

「君が何を望んでいるか・・・分かりたいよ」

しばらく黙って俺の胸の中で大人しくしていた最上さんが、身じろぎをする。

「・・・敦賀さんの様に、何も失ったことが無い人には分かりません・・・」

抑揚のない暗い声に、俺の心臓が凍りつく。

「そんなことは・・・
俺は・・・今まで何も自分から望んだことが無かっただけで・・・でも君を望んで、手に入らないんじゃないか、失うんじゃないかと、自分でも滑稽なくらい、恐れてるんだ」

「流石に、何でも持ってらっしゃる方は言う事が違いますね? 私、決めました。敦賀さんに私の心は絶対にあげません。恋愛小説はバッドエンドです。そうすれば、私の気持ちが少しは分かりますよ。うれしいですか?」

そうやって・・・クスクス・・・と暗く笑う最上さんに、俺は頭の中が真っ白になった。

「なぜ・・・そんな・・・そんなの嫌だよ」

「嫌だと言われても、とにかく私の心はあげられません。次の女性を当たって下さい。敦賀さんなら、直ぐに見つかりますよ」

「そんな言葉、君から聞きたくないっ!」

「じゃぁ、私は2度と敦賀さんと口をききません」

そう言って、最上さんは俺とは一番遠い場所に座り、黙ってトルコで買った写真集を眺め始めた。


***

俺は彼女の腕を掴んで、飛行機の最後尾にある寝室に引きずっていく。

「痛いっ、何するんですか!」

彼女が抗議をするけれど無視した。

「最上さんがね、心をくれないというから・・・別の物を貰うことにしたよ。あぁ、貰うじゃなくて奪う、かな?」

彼女は俺の意図するところ察したらしい。大声で客室乗務員の名前を呼ぶ

「マツダさん!オカノさん!どちらでも良いから来てください!!!」
「最上さんの声に応えるな!社長命令だ!」

彼女に続けて俺が声を上げる。

「皆、俺が怖いからね。絶対に来ないよ・・・」

そう言いながら、寝室の鍵を内側から閉め、最上さんをベットの上に放り投げる。必死になって逃げようとする最上さんの足首を掴んで自分の方に引きよせて組敷いた。

「こんな事は犯罪です!」

無視して彼女の服を剥ぎ取り始める。

「止めて下さい!」

自分のシャツを脱ぎ捨てる。

「どうして、こんな酷い事を!」
「酷いのは君じゃないか!俺が昨日から何をしたっていうんだ!」



SIDE KYOKO

「酷いのは君じゃないか!俺が昨日から何をしたっていうんだ!」

そう言われて、少し冷静になった。確かに敦賀さんは何も悪くない。悪くないけれど・・・無理やり私を抱こうとしている目の前の敦賀さんに嫌悪しか感じることができない。吐き気が込み上げてくる。

「・・・うっ」

私はそこで吐き戻してしまった。

「そこまで俺が嫌いになったか・・・たった一晩なのに。許せないな」

そう言って、今度はバスルームに連れ込まれた。頭からシャワーを浴びせられ、さっき吐いたものが洗い流される。次にシャワーを口に当てがわれ、無理やり水を飲まされた。気管にも水が入り、ゴホゴホと苦しい咳にむせていたら、濡らしたフェイスタオルで腕を後ろ手に縛りあげられ、口にはハンドタオルがねじ込まれる。

----私は恐怖で震えながら、母の事を思い出していた。


SIDE 最上冴菜 --- 現在から約23年前 & 約8年前 ---

私がキョーコを身ごもったのは強姦だった。

当時、私は富裕層を相手にジュエリーのオリジナルデザインと作成を請け負っていた。駆け出しの頃は、こちらから頭を下げて売り込んでいたけれど、なんとか生活が困らない程度には声がかかるようになり、宝田社長とも、その頃に知り合った。

そんな中、顧客の一人が突然私に誘いをかけるようになった。その男の妻は子供が出来ない体だったらしい。家業を継がせるため、大金と引き換えに愛人になって子供を産んで欲しいと言われた。当然、私は断ったけれど・・・私は陥れられてしまった。

独身・20代・天涯孤独、そして男の妻と同じ-非常に珍しいRH(-)ABの血液型。その男の血液型はRH(-)O型で、夫婦の子供として不自然ではない子供を確実に得るため、やっと見つけた「子供を産む機械」が私なのだ、と。

私は、キョーコを妊娠させられて監禁されていたが、何とか隙を見つけて宝田氏の所に逃げ込んだ。宝田氏は私が知るなかで唯一、その男が経営する企業よりも大きな企業体を経営していて・・・助けてくれるかどうかは分からなかったけれど・・・警察に行くよりも心強いと感じていた。

生まれてきた子供は女の子。正直、愛情は全く感じる事は出来なかった。適当にカタカナの名前を付けて、育てた。手放さなかったのは、あの男に渡したくない一心だけ。私は、匿ってくれた宝田氏の下で働き始め、宝田氏のすすめで小説を書き始めていた。


***

15歳になったキョーコが小説を書いて私に見せてきた。

内容は父親と娘の心の交流。とても丁寧に心情が語ってあって、同じ小説を書くものとして心が震えた。そして、私には分かる。娘はキョーコ自身がモデル。そして、父親にすり替えてあるけれど、この父親のモデルは私だ。

私はキョーコに冷たくしていたのに、彼女が私に向ける心がこんなに温かい事を知った。

----なんて心が優しい・・・私の子。

愛しさがこみあげてくる。今までずっと冷たくしてきた自分が恥ずかしくなり、でも15年の長い間、冷たくしてきたキョーコに直ぐには素直になれなくて。とりあえず成人する彼女に宛て手紙を書いた。

彼女には・・・20歳になって成人するまでは決して父親を探してはいけないと告げた。父親は私を道具にして子供を産ませたのだから、と。本当は、この時にすぐにでも、彼女を「それでも私はあなたを愛したのよ」と、ちゃんと抱きしめてあげればよかった。

会いたくて(19)

SIDE REN

レセプションも半ば頃、

「良いホテルね?」

ゲストの一人に日本語で声をかけられる。外国人中心の招待客の中、数少ない日本人ゲスト。60代前半の御夫人は京都を中心に関西全域でレストラン経営する会社の社長夫人。今回、テナントとして和食レストランを出してもらった。

「今回は遠路はるばるトルコまでお起こし頂き、誠にありがとうございます」

「いえいえ。ヒズリさんに見限られないように、ちゃんとウチの味と品格が守れているかどうか自分の目で確かめに来させて頂いただけなんですよ?」

そういって、ニコニコしている。

「ところで・・・あそこにいる美しいお嬢さんはどなた?」

そういって、最上さんをチラリと見る。

「あぁ、あれは僕の秘書です」

「そうでしたの・・・ふふ。本当に美しい方」

含みのある笑い方が少し気になったが、きっとこの聡い御夫人は俺の態度から何か感じたのだろう。表向き、彼女の夫が会社の代表になっているが、夫人の方が数段やり手だという事は周知の事実。浮かれる気持ちを抑えて、普段通りを心がけているつもりなのに・・・。

「私、英語があまり得意じゃありませんでしょう? 話し相手になって頂ける嬉しいのですけれど・・・彼女を紹介して頂けませんか?」

そう言われて一瞬迷ったが、最上さんを手招きする。
彼女はヒズリに喧嘩を売るような馬鹿な真似をする人間ではないし、なにより美術品に対する造詣が深いと聞いている。きっと美術学部で学んだ最上さんと話が合うだろう・・・と思った。



SIDE KYOKO

「初めまして、秘書の最上キョーコです。本日は新しいヒズリホテルのプレオープンに起こしいだたきありがとうございます」

とりあえず型通りにあいさつをする。

「初めまして。私、清野由紀と申します。今回こちらに『TEMPURA-KYOTO』を出させていただいております」

私はゲストの情報を頭の中から引っ張り出す。清野由紀は外食チェーンの社長夫人。他にも、いつくかのヒズリホテルに店を出している。

「いつも世話になっております」

「敦賀さんの秘書の方は、社さんも琴南さんも、そして貴女も、本当に美しい方ばかり。もちろん、敦賀社長と同様、外見だけじゃないのは、存じ上げておりますけれど?」


***

清野さんは、

(私、美術品に目がなくって・・・でも、ただの門前の小僧で・・・美術学部でちゃんと学ばれた方を相手にお話するのは恥ずかしいのですけれど)

と、謙遜されていたけれど、色々な事をよく御存じで。何よりお話がとても上手な方で楽しくお話をさせて頂いた。敦賀さんは私達の話に付いて来られなかったらしく、途中で他のゲストの所に移動してしまったけれど・・・

「それにしても・・・とうとう敦賀社長も落ち着くのね?
私の息子なんて30代半ばなのに独身のままフラフラしていて・・・早く結婚して落ち着いて・・・私を楽隠居させて欲しいんですけれど、なかなか・・・」

何やら不審な事を言われたような気がする。けれども、聞かなかったことにして、

「そうですか」

と流した。清野さんはそのまま、

「敦賀家とはずっとお付き合いさせて頂いていますけれど、あなたのような芸術系の血が入るのは久しぶりなんじゃないかしら?最近、ビジネスの鬼と化していて残念に思っていたのですけれど・・・きっと貴女が素敵な風を運んでくれるわ」

(敦賀さん、私を呼ぶ前に何を言ったのかしら?) と、戸惑いを隠せずにいると、

「あらあら、ごめんなさい?出しゃばった事を言って。あなたをいじめたと敦賀君に思われたら、大変な事になるわ」

そういって、彼女は胸に留めていたブローチを外して私の手に載せた。

「これ、お詫びの印。あと・・・ホテル開業のお祝いと貴女との素敵な出会いに対するお礼。私、こんなに楽しくお話させていただいたのは久しぶり、本当よ?」

と清野さんが言う。私はその行動に驚いてしまって、

「清野さんはお詫びが必要な事なにもされてませんから!それに、楽しませて頂いたのは私の方です・・・ホスト側の人間なのに。こんな品物を頂く理由は何もありません!」

と返すものの、受け取って貰えない。

「でも貴女、私のブローチを素敵だと誉めて下さったし・・・とても気にしてらっしゃるの・・・分かるのよ?」

確かに私はそのブローチの事が気になっていた。懐かしい・・・でも全く古臭い印象を与えない繊細で美しいデザイン。ちょっとは、ううん凄く、見惚れてた、かも? もしかして私、すごく物欲しげな目で見ていたのかしら!?・・・恥ずかしいっ!!

「ひぇえ、確かにそうですけれど!でも、似たようなデザインのお品を自分で買いますから!本当に、お気持ちだけで十分嬉しいです!」

と再びブローチを返そうとする。

「残念ながら、これはどこに行っても買えないのよ?だって「幻のジュエリーデザイナー」と呼ばれる『冴菜』の作品なんですもの。とはいっても、元々の値段はそんなに高いものじゃないし、彼女の作品はまだ何点か持っているから・・・価値の分かる貴女に差し上げるわ」

----母の作品に間違いない

母は・・・私を産む前はジュエリーのデザインをしていたと聞いていた。でも、関連するものは何も残っていなくて。それは、父が母のジュエリーを贔屓にしていた顧客で、忌まわしい記憶を呼び起こさないよう母が処分していたから。

私は、そのブローチを返すことが出来なくなっていた。



この後の話は、蓮様がちょっとキレちゃうKシリーズと、ひたすら甘いAシリーズに分岐します。お好きな方のアルファベットが付いた方へお進みください。

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会いたくて(18)

SIDE REN

ヒズリホテルズ・パムッカレがプレオープンを迎えた。

招待客に1泊2日で泊まってもらい、グランド・オープンに向けて受入れ体制の総点検を行う。大切なお得意様に粗相がないよう従業員たちが必死になって応対している。俺と支配人は手分けをしながら、朝から到着するゲストに挨拶しつつホテル内の隅々に目を配る。

最上さんには、夕方から開かれるレセプションに同伴してもらう予定だ。

(あの反応は、どうゆう風に理解すればいいのか)

彼女の事だから、突然の俺の告白にビックリするだろうと思っていたのに、反応はとても静かで淡白だった。

(前向きに考えるので、すこし時間を下さい)

そう一言、言われただけで。前向きに考えてくれるとは思えない・・・彼女の暗い表情が・・・頭にこびり付いて離れない。

(俺、振られるんだろうか?)

俺の心臓は、昨日からずっと鈍く痛み続けている。


SIDE KYOKO

ついに敦賀さんから気持ちを打ち明けられた。

考える時間は十分にあったのに、答えは準備できていなくて・・・とりあえず、前向きに考える、とだけ伝えた。

それにしても、いきなりプロポーズ・・・普通は『お付き合いして下さい』からよね?
「家族」とか「結婚」とか言われても、正直、実感が湧かない。でも、敦賀さんがいきなりそうゆう単語を口にしたのは、きっと私が母の話しなんかしてしまったからだ、と思う。

(敦賀さんは私が家族とかそうゆうものに憧れてるんじゃないか、って思ったんだろうな・・・)

憧れが無いと言ったらウソになる。でも私は、随分前から『独りで生きて行く』と覚悟を決めていたから、いまさら、と思う。

宝田社長の『最後の願い』を叶えた後は、カメラマン:最上キョーコとして、自分だけの世界を作っていきたい。この世の美しいもの、綺麗なものを、言葉を使わずにどこまで伝えられるのか試してみたい。世界の果てまで美しいものを探しに行きたい。でも・・・

(最上君、この世で一番美しいものは愛だぞ?
世界の果てのどこかにあるんじゃなくて、気付くと傍らにあるものなんだよ。君が恋愛小説を書こうと思っているのは・・・無意識に敦賀君の捧げる愛を君が受け取りたいと思っているからだ。素直に認めて、彼の手を取りたまえ)

宝田社長から言われた言葉。あの人は、愛こそ全てのラブ・モンスター(という名前の変人)だけど、肝心な時の選択を間違った事はない。しばらく思考の小部屋に閉じこもっていたら、そのドアを『京子』がノックして告げる。

----迷っているならシンプルに考えて? 
    恋愛小説は・・・ハッピーエンドかバッドエンドか。


SIDE REN

ゲストの為のレセプションがあと30分で始まる。そろそろかな・・・と美容室に最上さんを迎えに行く。彼女のドレス姿見たさに・・・仕事だからと言い聞かせ、2時間ほど前に彼女をサロンへ押し込んでおいた。

最上さんが、ホルターネックのシンプルな形のイブニングドレス姿で現れた。艶のある濃紺の地に、白い糸で花の模様が胸元から足先まで流れるように刺繍してある。ホストとして派手すぎず、それでいて地味すぎず、完璧な選択だと思う。

そして、プロによってメイクが施された最上さんは・・・とびきりの美女に変貌していた。

「・・・すごく、綺麗だ」

俺の称賛に対して、彼女は、

「・・・肩がスースーします・・・」

開口一番、色気のないセリフ。その口ぶりとは裏腹に、髪をアップにして・・・露出するうなじから背中のラインがとても艶めかしい。水着姿は既に見たけれど、その時にはない色気が漂っている。

「それに、すごくセクシーだね?」

俺は少しは色気のある会話を彼女としたくて・・・そう続ける。さすがに最上さんも反応してくれて、

「えっと、まぁ・・・大人っぽくしてください、とお願いしたので。敦賀さんの隣に並んでも恥ずかしくないように・・・」

そう言って、すこし頬を染める。

「ずっと、俺の隣にいてくれたらいいのに・・・」

そう俺が言うと、最上さんが「ううう・・・」と低く唸ってから、

「恋愛小説はハッピーエンドということで」

と、謎の答えを返してきた。
その言葉の意味が---彼女が俺の気持ちを受け取ってくれる---と理解できた時、俺は人生時で初めて得た宝物をギュッと腕に閉じ込めた。

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会いたくて(17)

SIDE KYOKO

今日は、ヒエラポリス(パムッカレに隣接する古代都市跡)を回った。本当は、ヒエラポリスとパムッカレの両方を合わせて世界遺産として登録されている。そして遺産としての価値は・・・ヒエラポリスの方が格段に上。そう言われているのが実際に散策してみると良くわかる。

敦賀さんと街の写真を撮りながら歩いていると、街の終わりの城壁に辿り着いた。その外側には、見渡す限りの向こうまで野花が咲き乱れる緑の草原が広がっていた。

そこは、アナトリア地方最大のネクロポリス(古代墓地)。草原の中に無数の白い石棺が散らばっている。2千年前から変わっていないだろう景色の中、安らかに眠る死者たち・・・

「・・・私、あまり人の死を連想させるものが、好きじゃなかったんです」

ポロっと本音が漏れてしまう。

「どうして?」

敦賀さんが心配そうに訊ねる。

「母の死を・・・思い出してして辛くなってしまってたんです。母の死を認められなくて、せめて人の心の中では生きたままで居てほしいって思って。でも最近、やっと母の死と向き合うことが出来たんです・・・。」

私の言葉を聞きながら、敦賀さんの表情が曇っていく。私がこんな顔をしたら、敦賀さんじゃなくっても心配する。

「あ、でもホント、もう平気なんですよ?」

「平気だなんて・・・そんな顔をしながら言われても信じられないな。何かちゃんと向き合える切欠があった?」

「・・・」

「まだ、本当は吹っ切れてないんじゃ・・・」

「・・・」

本当はこの先は黙っていた方がいいと思う。
でも、長い長い間、この美しい場所で安らかに眠る死者達に(気持ちを聞かせて?)そんな風に尋ねられた様な気がして・・・

「母から手紙が届いたんです」

私は話を続けた。

「え?」

「私の二十歳の誕生日に届くようになっていました。私、ずっと母に憎まれていると思ってたんです。けれど、それは私の誤解で・・・母はちゃんと私を愛していた、と書いてありました。それで私、母の死を受け入れられたんです。
・・・だから本当に大丈夫なんですよ?京子の『虚像』は、私が誤解していた母の姿なんです。」

「あの、夕陽の写真?」

「ええ、まぁ、そうです」

私は敦賀さんから視線を外して遠くを見た。


SIDE REN

最上さんが、彼女の母親の死について話してくれた。彼女が母子家庭だとは聞いていたけれど、触れて欲しくなさそうだったから、詳しく聞いていなかった。まさか亡くなっていたとは、

「・・・辛い事を聞いてすまない。お母様はいつ?」

「私が16歳の時に」

手紙が届いたのは20歳の誕生日だといった。という事は、4年の間、彼女は母親の死で辛い思いをしていた事になる。

「長い間・・・辛かっただろう?」

「そうだったかもしれません。・・・でも、今は本当にそれが吹っ切れて。今は、こうやって墓地を眺めていても、気持ちが安らぐほどです」

と彼女が笑う。その笑顔が明るかったので俺は少し安心する。

彼女が欲しているもの、2年前だったら確実に母親の愛だったと思う。でも今は?今、彼女が欲しいものは?彼女は母親に・・・愛情を返す前に失ってしまった。だからきっと彼女は母親の代わりになる存在を欲しがっている?

----「家族」?

俺はそう感じた。だから

「最上キョーコさん。俺の家族になって下さい。
 俺は君を愛しています。俺と結婚して、子供を産んで、
 俺と君の新しい家族に君の愛を注いでください」

と彼女に伝えた。自分の言葉が彼女の心を掴めるように祈りながら。


SIDE KYOKO=『京子』

小さい頃から、私のお母さんが、お友達のお母さん違うのを感じていた。
他のお母さんと違って、ごはんを一緒に食べたり、お話を聞いたり・・・殆どしてくれない。

でも・・・お母さんは、とっても有名な「しょうせつか」で、私はそれをすごいと思っていた。だから他のお母さんとは違うのは「しかたない」と思っていた。

お母さんの書いた本は本屋さんに沢山ならんでいたし、私の住むお家はとても豪華で、欲しいものは、何でも買ってもらえた。宝田のおじさんに「お母さんが「しょうせつ」を書いていることを誰にも言っちゃいけないよ?」と言われて・・・本当は言いたかったけれど・・・お母さんに嫌われたくないから黙っていた。

それに、きっとお母さんは私の事を好きなんだ、と思っていた。だって、お母さんのしょうせつを書く時の名前は、私の名前とおんなじだったから。

***

私がそれなりに大きくなると・・・母が私に無関心なのはやはり異常なのだと気付いた。むしろ無関心とゆうより、憎まれている?

でも、物事が分かるようになったからこそ、母の書く『京子』の小説が凄いということが理解できた。私は、『京子』以外にも沢山の本を読んだけれど、『京子』よりも上だと思える人がいなかった。だから母に憎まれていると感じる一方で、『京子』に対する憧れは募った。

だから・・・『京子』の小説を暗記するほどに読んで・・・そして、母の関心を引きたくて、ついに小説を自分で書いて母に見せた。題材は『父親』。それがパンドラの箱を開ける鍵になるとは知らずに。

***

母は、私の父の事を、淡々と私に告げた。そして二度と父親の話をしないように、と。

私は娘なのに・・・母の側に置いて貰えなかった。だから母の人となりは良く分からない。でも、『京子』の小説は、繊細で、人の心を切ない程に痛ませるのに、最後には読む人を幸せにする。きっと母も『京子』の小説のように繊細で感受性が豊かで優しい人なんだろうと思っていた。そんな母に本当に憧れていた・・・。

----なのに

そんな母を傷つけた父と、父の娘である自分が憎らしくて。
母の前から永久に消えてなくなってしまおうかと思った。けれど・・・その前に、母が事故で急逝してしまった。

私は、悲しくて、辛くて、どうにもならなくて、気付くと寝食を忘れて小説を書いていた。出来あがった小説は、まるで『京子』が書いたみたいで・・・。私は『京子』消えてしまうのが耐えられなくて、その原稿を宝田社長に見せていた。

私の作り上げた『京子』は、『京子』にして『京子』よりも『京子』らしい繊細で美しい小説、と称賛を受けた。そうして私は『京子』として小説を書き始めて・・・ずっと『京子』に寄り添って生きて行くのだろうと思っていた。

けれど、母からの手紙を受け取る事で・・・最後に『京子』として、母への思いを綴り『京子』を永久に眠らせよう、そう決心した。

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Agren

Author:Agren
本家のストーリの進行のじれったさに、素敵な2次小説サイトを巡って熱を冷ましていましたが・・・とうとうを自分自身で妄想を開始しました。
2次は愚か、小説初挑戦です!



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