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LOVE PHANTOM(20)

SIDE KYOKO

小学校に上がった初めての夏休み、私はいつものように不破家に預けられっぱなしにされていた。有り余る1人の時間。最初こそ宿題をやったり、本を読んだりしていたけれど、休みも終わり頃になると時間を潰すのに苦労する日々が続く。

(何の用事も無くて、一緒に遊ぶお友達も居ないのは私だけ・・・)

『・・・キョーコはお姫様だ、って親父が言ってたぞ』

いつの間にか、友達の家に遊びにいっていたショーちゃんが帰ってきていた。

『お姫様?』
『ちょっと来いよ』

意味が良く分からず首をかしげたままの私の手を、幼馴染が引っ張って彼の両親の寝室に入っていく。

『ショーちゃん、駄目だよ!勝手にいじると怒られるよ!』

私の声を無視して本棚によじ登り、高い所にある1冊の本を引きずり出してくる。それは古いアルバムで、貼ってある色褪せた写真達には、子供の姿が多く写っていた。

『これ・・・?』

その中の一人が、とても私に良く似ている。でも、私じゃない。

『似てるだろ?これは親父の弟・・・キョーコの父親なんだってさ』
『!?お母さんは、私にはお父さんは居ないって・・・』
『バーカ、親父は誰にでもいるんだよ!』
『じゃあ、キョーコもお姫様だったの?ショーちゃんが王子様なのと一緒?』
『だな。だからメソメソするな。不破の人間は強くなくっちゃいけないんだぞ?』

私は、うんうんと頷いた。
お母さんに滅多に会えない事とか、お父さんがいない事とか、何故か親しい友達が出来ない事とか・・・一人になると色々考えてしまって。でも、自分は「お姫様」だと思うと気分が軽くなる。私が知っている沢山の「お姫様」達は、みんな最初は不幸でも最後は幸せになれるから。

『内緒だぞ?俺だって盗み聞きしたんだから』
『そうなの?』
『色々と「オトナのジジョー」ってやつがあるらしい』
『?』
『なんだか良く分からないけど、誰にも知られちゃいけない事らしんだよ・・・』



----ショーちゃんは王子様

皆がそう言うのになんの違和感も無かった。だって、ショーちゃんは正真正銘「不破王国」の跡継ぎだったから。

不破王国・・・それは日本で一番大きな会社・・・不破自動車株式会社とその関連企業のこと。

その本社があるのは愛知県不破市不破町一番地。
良くある誤解・・・不破自動車は不破市にあったから、その地名を取って命名された・・・のではない。元々は違う名前だった市が、不破自動車の名前を倣って改名し、本社を中心に区画整理がやり直された。そんな事を市民が受け入れる程・・・不破自動車がその土地に与える影響は絶大だった。

そして、その影響力は不破市を中心に名古屋の経済圏の殆どに及んでいる。そんな巨大自動車会社が「王国」と呼ばれるのは、不破一族が「王族」と揶揄される程の権力・財力を持っているのはもちろんのこと、

----不破家が巨大企業を纏め上げる程の「求心力」を持っている

その1点に尽きる。
不破自動車を筆頭とした関連会社の株の殆どは不破一族が所有し、同族経営がされている。しかし、一族は鋼鉄の意思と団結を以って同族経営の「甘え」を排除し、織機屋時代から不破自動車と関連企業の繁栄とその社員の安寧な生活の全責任を負ってきた。

例えば・・・不破家に生まれた子供は、幼少からの英才教育を施され、不破王国の繁栄を第一に考えて生きることを叩き込まれる。しかも、無能だと判断された一族には、決して経営の中枢を任せる事はしない。

そんな不破家の婚姻は例外なく「政略結婚」。不破自動車発展に寄与できる家柄の中から、個人的能力の高い人間のリストが作られる。私の父である不破健次郎も某政治家の長女との婚約が成立していた。なのに・・・父と母は出会い・・・私が宿った。

----本家筋の父が密かに母と入籍し最上姓を名乗る

不破の名前を勝手に捨てた・・それは一族の大スキャンダル。その事実は、父が私が生まれた直後に亡くなったから不問に処され、今でも一部の人間を除いては知られていないけれど・・・。

そうした「事情」を、私は中学生になる頃には理解できるようになっていた。その頃には、私の顔立ちは本当に良く父に似てきていて・・・

『お母さん、私の父親は不破健次郎さん、なのよね?』

遂に、母に聞いてみる。

『・・・そうよ』

さすがに、もう誤魔化せないわね・・・そう言って、母はため息を吐いた。私が父親が誰かというのは、もう聞くまでも無かった事だし、密かにショーちゃんのお母さんには聞いていた事だったけど。母の真意を・・ずっと、直接聞きたかった事がある。

『どうして、お母さんは不破自動車で働いているの?』

私が父に良く似ているから・・・顔立ちがハッキリし始めた幼稚園生の頃には既に・・・私が「不破健次郎の愛人の子」だと周囲は勝手に思い始めていて。

不貞の子が不破家に預けられている。でも、不破家も最上冴菜もその子供が不破の血筋だと認めていない、いや認められない。そんな微妙な立場にいる私に「領民」は「最上キョーコを粗末に扱わないこと、でも必要以上に仲良くならないこと」、そう子供に強く言いきかせていて・・・私はずっと寂しい思いをしていた。

----そんな状況なのだから・・・母親にとって不破自動車は居心地の良い職場では無いはず

『私が不破自動車で働くのは健次郎さんの為。彼は、私とあなたの為に不破を捨ててくれたけど、不破の役に立てなかった事を申し訳ないと思ってたの。だから・・・』
『お父さんの事・・・好きだった?』
『全てを捨てても良いと思ったわ・・・今でも』

母の口から出たとは思えない情熱的な言葉に・・・もう一つ質問をする勇気が湧いてくる。

『私、は・・・邪魔・・・じゃなかった?』

ずっと私は放置され、その癖、厳しい要求ばかりされてきた。

----もし、私が居なければ

父と母は恋人関係を少しの間結んで・・・別れて・・・お互い生きるべき道を進んでいたかもしれない。そうゆう『もしも』の世界を、母は望んでいたのかもしれない。伯母さんは否定してくれたけど、ずっと、そう考えていた。でも、私に・・・父への気持ちの万分の一の欠片でも持っていてくれたなら・・・私は自分が想像していたような「最悪の言葉」を聞かなくても済むのかも。

『不破自動車で働く以上、私は完璧じゃ無ければならないの。私が成果を上げるのは当たり前、だけど失敗すれば健次郎さんの顔に泥を塗る。だから私は、私の全てを掛けて働いてきたわ、今までも、そしてこれからも。それに・・・』
『それに・・・?』
『私が不破自動車の中で偉くなれば・・・それに、あなた自身も優秀な人間だと周囲に理解されれば・・・あなたの立場も良くなって、友達の一人くらい、できると思ったのだけれど・・・それは無理だったみたいね』
『・・・』

(私に友達が居ないこと、気に掛けてくれていたってこと?)

『あなた、私の子の癖に・・・健次郎さんにばかり似てる。人の為に生きるのが苦じゃないところとか、人を責めないところとか。私が子供を産んだのも、不破で働くのも、あなたを側に置くのも、厳しく躾けたのも、勉強を強いたのも・・・全部、私の我儘と自己満足のためなのに。・・・もう行かないと』

そう言って、母は私の質問には答えずに出て行ってしまったけれど・・・

(邪魔なわけないでしょう)

確かに、私にはそう聞こえていた。


***


誕生日の前日、私は実家を念入りに掃除し、ダイニングテーブルを磨きあげていた。

----初めて母と一緒に自宅で過ごす誕生日

一応、定期的に簡単なハウスクリーニングが入っていたけれど、家中を綺麗にして、少しだけ飾り付けをしたい。料理は私が用意しなきゃいけないけど・・・母がケーキとプレゼントを用意してくれるという。なんかもう、それだけで嬉しくて、本当は家中を喜びのままに飾り立てたくて仕方がない。

(私、頑張って東都大に行って良かった!)

そして スーぺリオ以来の母の「ご褒美」に思いを馳せる。

(また、車かな・・・?)

東都大は、中学生がテストで満点を取るレベルじゃないわよ!もっと凄いもの・・・。

(母の体と時間!!)

うんうん、と1人納得する。

(私も少しは不破自動車の役に立つ、そう思って貰えるようになったのかもしれない)

母は私に「将来は不破とは関係の無い所で好きに生きなさい」と言ってくれたけれど・・・不破の血・・・父の血が、母を助けて不破の為に働く事以上に大切な事など無い、私にそう感じさせていた。



----ガチャ。

玄関に通じるドアを開け放し、聞き耳を立てていると、鍵が回される音が聞こえた。呼び鈴を鳴らす習慣の無い母が帰ってきた合図。

付け合わせのポテトサラダとほうれん草のキッシュはきちんと盛りつけてある。あとは、鶏の丸焼きをオーブンから出すだけ!最後に指差し確認をし、私は玄関に向かい走って行く。

「お帰りなさい!」

(----え!?)

現れたのは、私の想像とは違う姿。

「ど、どうしたんですか・・・?」

思わず、声が上擦ってしまう。

「はいケーキ」

私の戸惑いを無視し、母が緑と赤のリボンを掛かっている箱を差し出してくる。

「お母さん?ずいぶん痩せて・・・」

コートを着ているから体の線は良く分からない。でも、頬がコケて、肌も艶がなくて。母は元々シャープな印象を持っていた人だったけど、凛とした美しい人だったのに・・・

「仕事が忙しかっただけよ」
「!?そこまで・・・無理しないでください・・・たまには休んで・・・」
「取り敢えず、食事にしましょう」

私は少しやりきれない想いを抱えたまま、母の背中を追ってリビングに入った。



「大学はどう?」
「はい、お陰さまで楽しく・・・」
「楽しい?」
「あ、いえ、ちゃんと勉強してます。前期試験の成績も殆どAでした!1つだけBを取ってしまいましたが・・・」
「別に、良いのよ。友達はできた?」
「はい」

なんだかとても緊張する。普通に会話をしているだけなのに。
その後も、私は慎重に言葉を選びながら食事をして。粗方終えたところで少し食卓を片付け、冷蔵庫に閉まってあったケーキを箱から取り出す。

----Happy Birthday to Kyoko

そう書かれたチョコレートプレート。それを見て、私は思わず泣いてしまった。初めての・・・こんなにちゃんとした誕生日ケーキを、母から貰えるとは思ってもみなかった。

「どうしたの?」
「嬉しいんです・・・お誕生日ケーキだから・・・」
「これ・・・19歳、おめでとう」

そういって差し出された小さな小箱。誕生日ケーキだけでも嬉しかったのに・・・涙をぬぐって笑顔を作り、ありがとうございます、と礼を言って受け取った。

箱を開けると、宝石箱になっていて、中に一つだけ指輪が入っていた。

「私からだとは思わないで」
「?」
「私があなたのお父さんからもらった指輪と同じデザインを銀で作らせたわ。嵌まっている石は・・・私の指輪から抜いて。そうゆうことだから、一応、お父さんからの贈り物って事にして頂戴」
「あの・・・?」
「19歳の誕生日に父親が指輪を贈ると、娘は幸せになれるのでしょう?彼は、そうゆうジンクスが好きだったから。きっと生きていたらそうするでしょう、と思って」

これが、健次郎さんがくれた指輪。そういって、見せられた指輪には、裏に石が埋められていた跡だけが残っていた。

「この指輪をあなたにあげても良かったんだけど、プラチナ製だし。それに、やっぱり、これだけは持ってい行きたいから・・・失くしたと思われたら心外だわ・・・」

そういって、薄く微笑んだ母は、

「私、そろそろ健次郎さんに会いに行く事になるかもしれない」

理解に苦しむ事を言う。

「あの・・・お父さんは・・・本当は生きてるんでしょうか?」

私の質問に対して、やつれてしまった美しい人は

「癌を患ったの。一応、手術を受けれるけど・・・私は働き方を変えるつもりはないし、あなたが成人するまで生きられれば十分だし、正直、少し疲れたから・・・そろそろ休みたい」

「そ、んな・・・」

(母が、今日私を呼んだのは、何のためなのか・・・訳が分からない・・・分かりたくも・・・ないよ)





不破自動車のモデルのト○タ自動車が、豊田市ト○タ町一番地にあるのは事実で、結婚相手がすごいのも本当です。その他は、誇張もありますが・・・。
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プロフィール

Agren

Author:Agren
本家のストーリの進行のじれったさに、素敵な2次小説サイトを巡って熱を冷ましていましたが・・・とうとうを自分自身で妄想を開始しました。
2次は愚か、小説初挑戦です!



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