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misleading-後

Misleading-誤解を招くあれとそれ-後篇

「最上さん起きて!着いたよ!!」

声を掛けても目覚める気配が無い彼女。仕方なく体をゆすってペチペチと頬を軽く叩くと薄く瞼が開いた。

「敦賀さん・・・?」
「マンションに着いたよ!」
「はぃ?ああ、ちゃんと、お部屋まで送りますよ~、ワタクシ仕事きっちりがモットーです」

(・・・まったく・・・)

あの後、タクシーに乗り込んで、さて、どうゆう風に俺のマンションに向かうよう誤解させつつ彼女の自宅にタクシーを向かわせようか?と考えていた・・・その僅かな時間に、彼女は眠りこけていた。なんて、危うい酔っぱらいだ!と俺が憤慨するのは無理もないと思う。

「さぁ、降りて下さい~」

よろよろとタクシーを降りる彼女の姿に溜息が出る。
タクシーの運転手には少し待って貰うことにして、彼女が一人暮らしをしている部屋まで誘導する。

「あれ?ここ、私の部屋・・・ま、いいか・・・」

彼女が、ドアノブに手を掛ける。カチャカチャとドアノブに言わせているけれど・・・

(・・・良くないと思うよ?)

それに鍵開けて無いでしょ?、と言おうとした瞬間、

「開かない・・・ドアが開かないよぅ・・・」

悲しそうな最上さんの声が聞こえてきた。もう、何と言って良いのか分らない気持ちになる。

(もう、この娘はっ!この醜態を携帯で撮影して後日彼女に見せるしかない!!)

携帯を操作し、カメラを最上さんに向ける。
すると、彼女の体がずるずるとドアに寄りかかるようにしながら沈んでいく様子がディスプレイに映った。慌てて被写体に目を向ければ、ドアの前に座り込んで頭を垂れている。

「こら!こんな所に座りこまない!こらっ、寝ない!!」

しかし、今度は少し強めにゆすろうが叩こうが、瞼が開かない。

(まったく、まったく!!なんて危険な酔い方するんだ!!)

「他の男の前でこんな風に酔っぱらったら、許さないからね?」

彼女の意識が無いのをいいことに、言いたい事を言わせてもらう。他にも言いたい事がいろいろあるけれど、説教はまた後日にたっぷりすることとして、俺は彼女の鞄の中の何処かにある部屋の鍵を探す事にした。カードキーになっている俺の部屋とは違い、鍵穴がついたドアノブ。

----チャリ

鞄の中、指先がはじいた物から金属音がする。きっとキーホルダーを探しあてたのだろうと思い、それをそのまま引っ張り出してみると、

(手錠!?)

出て来たのは、およそ女の子の鞄に入っていない様なもの。
なんでこんなもの・・・と一瞬驚いたものの直ぐに合点がいった。確か『螺旋の森』出演記念に貰っていたっけ・・・俺はソレを鞄に戻して再び鍵を探し始め、やっとの事でポーチの中から見つけだした。



「お邪魔します・・・」

完全に寝込んでいる最上さんを脇に抱えて部屋に入り、手近な壁に見付けた電気のスイッチらしきものを押すと、オレンジ色の明かりが灯る。

(これが最上さんの部屋・・・)

部屋は玄関から直ぐにキッチンがあって奥の方にはベットらしきものが見えた。トクンと音を立てて心臓が跳ねるのを感じる。

(外にタクシーを待たせているし、この部屋に招かれて入ったわけではないし・・・)

俺は少し慌てて彼女をベットに押し込んで、足早に部屋を去ろうとして・・・ふと思う。

(朝起きたら何も覚えて無かったりして・・・)

既に、色々覚えていないのだから、きっと覚えて無い。

(最上さんには、こんな酔い方を2度として欲しくない、絶対に!)

そのためには、彼女は自分が陥った状態が如何に危ういか、思い知らないといけない。
少し怖い思いをしなければ・・・実際に、泣かせる様な事をする訳にはいかないけれど・・・しばらく考えて・・・さっき見付けた手錠の存在を思い出した。

(そうだ!)

朝起きて、自分が手錠で繋がれていたら?しかも、明らかに自分以外の誰かにされているのに、でも誰がやったか分らない、という状況だったとしたら?

きっと彼女は仰天し、2度とアルコールで失敗しないよう、細心の注意を払う様になるに違いない。

名案を思いついた俺は、きっとすごく意地悪く笑っていたと思う。取りあえず、鞄の中から手錠を取り出した。両手をはめてしまうと朝起きた時に鍵が開けられないから・・・取りあえず片手だけに手錠を着けて、反対側は何か・・・彼女が驚くようなモノに固定しないと・・・そう思いながら、さっきは気恥しくてよく見ていなかった部屋の中を、何か適当な物がないかと探しはじめる。

すると壁には・・・

----不破尚のポスター

(何で?何でこんなものを部屋に?)

その疑問に対する答えが出ないまま・・・ガツンと頭を殴られた様な衝撃がきて・・・俺は思わずその場にしゃがみ込んでしまった。

(もしかして・・・今だに?)

『キョーコは俺のモンなんだよ』

どれだけの時間がたったのか・・・不破尚のポスターが最上さんの部屋にあるという事実に衝撃を受け・・・心身共に動けなくなっていた俺に向かって、ポスターの中から不破が、そう言い放った気がした。まるで鼻で俺を笑っている様な、いつか見たような不破の不敵な笑みに、頭の中が沸き始める。

(結局、心を寄せるのはコイツなのか・・・)

表面上は、嫌う素振りを見せても結局「ショーちゃん」は彼女にとっての永遠の唯一。

16歳でデビューし順調に歌手としてのキャリアを積み重ねているアイツ。日本の若手アーティストNO1の称号だけでなく、世界デビューも既に果たし・・・その上、ずっと小さい頃から最上さんが傍らに置いて、その僥倖に気付かず彼女を捨てたのに・・・なおも彼女の心を捉えて離さない。そんな勝手は許せない。

----アイツだけじゃない・・・俺以外のものになる彼女、なんて許せない。

誰かに掻っ攫われる位なら、誰が手にしようとしてもその手から零れ落ちるよう・・・彼女を粉々に壊してしまいたい。久しぶりに感じる凶暴な気持ち。

(とりあえずこの目障りなパネルから粉砕するか?)

俺は拳を不破のポスターに向かって叩き付ける・・・直前で止めた。砕きたいのは、砕けたのは、物理的な『モノ』じゃない。形の無い、心の方だから。

「ファーストキスでは後れを取ったけど・・・そこで、君は指をくわえて見てるといい。最上さんが俺のモノになるのを、ね?」

本当はヤツが俺に仕打ちしたように、不破の目の前で最上さんを奪いたい。でもそれは非現実的だ。その代わりと言ってはなんだが、これで代用しよう。

早速・・・と思う気持ちを最後の理性でぐっと押さえ、俺は部屋を出て待たせてあったタクシーへと戻り、

「お待たせしました。実は彼女、気分が悪いと吐いてしまって。暫く付き添うので・・・帰って頂けますか?」

おつりは要りません、そう言って俺は運転手に一万円札を渡す。
何だか今から正気の沙汰と思えない事をしようとして言うのに、こんな風に常識的な対処している自分が妙に可笑しい。

そうして部屋に戻ってドアが閉まる音を聞いた同時に・・・『ガコン』と何かの蓋が開くような気がした。そこから何が出て来たなんて・・・今はどうでもいい。



酩酊状態に陥っていた彼女は自分の置かれている状況を理解していなかったと思う。途中から、反応がちゃんと返って来るようになったから、覚醒したらしいけれど・・・然したる抵抗もせず、俺の為すがままだった。

虚しさが無いとは言わない。けれど、そんなのは些細な事だと思える様な幸せな時間。
今まで俺は綺麗事で自分を誤魔化していたと痛感する。例え、相手の心が伴わなくても、恋しい女性を抱ける事がこんなにも喜悦に満ちているなんて・・・

しかも思った通り彼女は『初めて』だった。生まれてこれ以上、嬉しい事は無い。新雪でまっさらなゲレンデの上に、シュプールを描く快感に夢中になった。

「こんな風に無防備な君だって悪いんだから・・・ね?」

俺だけが悪い訳じゃない。君が自分自身で蒔いた種だろう?と自分勝手な事を思いながら・・・彼女が「仰天するもの」として、俺自身を彼女の片手に嵌めていた手錠に繋いだ。



***



「ギャーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」

いきなり頭の中心を叩き割らんばかりの声に反射的に飛び起きる。一体、何事!?

「申し訳ございません~」

目の前に広がった光景に唖然とするしかない。
昨夜、俺が彼女から剥いで放り投げた洋服を辛うじて体に巻き付けただけの半裸の最上さんが、ベットの下に転げ落ちたのか、不自然な格好で頭を下げている。

(これは・・・もしかしなくても、土下座?)

「敦賀さんを襲ってしまった事、謝って許して貰える事じゃないのは分ってます!でも謝罪させてください!!」

なんで、君が謝るの?と、覚醒したばかりの頭で考える。これは、予想通り・・・

「最上さん・・・もしかして覚えて無い?」

彼女が、ぶるり、と細い体を揺らすことで・・・それは図星だと告げられる。
そうであれば、少々こちらに都合の良いように話を作ってもバレない・・・落ちる所までいってしまった俺はこの時点で何の迷いも無く開き直る事を決めた。

さてどうしよう?考え始めた俺の思考をさえぎるように、最上さんが泣きながまくしたて始めた。

「昨日は私も酷く酔っ払っていたみたいでっ、前後不覚の敦賀さんを自分の部屋に引っ張り込んで、いくら好きだからってっ、うっ、無理やりなんてっ、今まで可愛がってもらっていたのにっ、信頼を裏切ってっ、ううっ、ごめんなさいっ~~~」

涙ながらに謝罪をする最上さんに違和感を覚える。もしかしなくても、『君を襲った俺』という事実を、彼女は『俺を襲った君』と誤解している?普通、こうゆう場合、男の方が悪いのが定石だろう・・・?

「最上さん・・・自分が悪いと・・・思ってる?」

「はい、私が100%悪いです!!」

涙ながらに返される返事は・・・それは俺に都合が良過ぎるだろう?という内容ばかり。冷静になるために、とりあえず深呼吸をして、もう一度、彼女の言動を整理する。

『酔って昨日の事を覚えていないであろう彼女が、この現状を・・・自分から無理に誘って抱かれた、と理解している。しかも、俺の事を好きだったから、そんな事をしでかしてしまったと・・・』

体が脱力するのを止められない。なんてことだ・・・いつから君も俺の事を?

(こんな幸せな結末を迎えて良いものなのか?)

彼女の誤解を解いてこれは俺からのアプローチだったんだよと・・・君の初めてを貰った責任を取るといって丸め込んでしまおうか?いや待て、最上さんの事だ。俺が全然望んでない遠慮をし、犬に噛まれたと思って忘れるから気にするなとか何とか言いそうな・・・

(確実にモノにするにはどうしたらいい?)

俺は捕食者的思考をフル回転させて考える。
最上さんは相手のために自分を犠牲にする事を厭わない。そして他人に甘えるのを良しとしない。自分が我慢すれば全てが丸く収まるのなら喜んでそうするだろう。だから、俺に責任を取らせるような事は望まない。

----彼女が何らかの責任を取る方向へ追い詰めるべきだ

そうして最初に思いついた『俺に純潔を奪われた彼女』を『彼女に純潔を奪われた俺』にすり替える作戦を思い付いたのは自然な事で。俺は、彼女を俺の望む結論へと誘導し・・・



「分りました・・・責任を取って・・・謹んで、敦賀さんをお婿様に頂戴いたします」

パンパカパカパカパーン♪

頭の中に何やら華やかな音楽が鳴り響いた気がした。
望んだ以上の台詞、プロポーズの言葉を引きずり出した結果に大満足だ。後はこの誤解が解ける前にしかけた罠の入り口をしっかり塞いでしまえばいい。

(俺たちは両思いだし、良いよな?)

少し最上さんが可哀想かなとは思うけれど、罠にはめた獲物は逃がさない主義。そもそも、彼女に記憶が無いのが分かった時点で、この勝負?は貰ったようなもの。

その後も、何だかゴチャゴチャと俺の婚約者(仮)はケチを付けていたけれど、俺は実力行使でそれを黙らせる事に成功した。


fin.



この小話に関しては+αを後ほど・・・
あー、久しぶりなんで、なんだか拙さが増したような。いきなり連載に戻らなくて良かった。
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misleading-前

2ヶ月近くご無沙汰してます。すみません。前作、Misunderstanding の蓮視点になります。Misunderstandingを先にどうぞ。

Misleading-誤解を招くあれとそれ-前篇


「螺旋の森」は俺が二十歳の時に主演を務めた刑事ドラマだ。

あのドラマを撮影している最中、LMEに性質の悪い風邪が流行して、社さんを含めた俳優部門の社員がバタバタと倒れた。そして社さんの代わりに「代マネ」として送られてきたのが最上さん。あの時、結局俺も風邪を引いてしまい、彼女に看病され・・・そこから、俺の長い初恋と片思いが始まる。

触れたい、抱きしめたい。でも、怖がられたくない。泣かせたくない。
だから、ゆっくりと彼女の今の気持ち---先輩に対する尊敬の念---を恋愛感情に変えてみせよう。そう決意し、彼女を追い詰めたりせず、恋愛恐怖症者が許容できるだろう距離を取って機会を伺っているのに・・・『鉄壁のガード』は益々高くなるばかり。

こうなったら、最終手段!!と、以前、劇的な効果を上げた頬へのキスを試みるも、

「世界に通じるトップモデル様ですものねー」

と、2度目はあっさりスルーされた。
万が一にも嫌われたらどうしよう、と俺が決行を悩んでいた日々は?いっそ唇にすれば良かったのか!?

「それでは、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」

少し大きめの声が耳に届いて、はっ、と我に返る。
俺は主演映画『螺旋の森−The Movie2−崩壊の日』の公開記念パーティーに出席していて・・・乾杯の音頭の前、監督の挨拶を聞いている内に少々ぼんやりしてしまったらしい。

(さっき最上さんに会ったから・・・)

俺が会場に着くとほぼ同時に、礼儀正しく、律儀に挨拶に来てくれた片思いの人。相変わらず彼女の「パーティ仕様」はとても綺麗だった。容姿を売り物にする芸能界にだって、あれほど綺麗な女性はなかなかいない、と感じるのは惚れた欲目だけじゃないと思う。



パーティの間、共演者達と話ながらも目の端で彼女の動向を掴んでおく。すると、ふっ、彼女の周りの人が捌けた。幸いにも周囲に彼女に話しかけようとする人間はいない。これは話しかける絶好のチャンス、とばかりに不自然にならないよう、可能な限り素早く彼女の元へと向う。

「最上さん、お疲れ様」

「敦賀さんこそ、お疲れ様でした」

いつもながら、最上さんの綺麗なお辞儀に感心する。

「初めての刑事ものを終えてどう?」

「色々と、感慨深かったです」

「感慨深い?」

「4年前『螺旋の森』の撮影を見ていた時には、まさか自分も『螺旋の森』に出演して敦賀さんと共演させて頂くことになるなんて夢にも思っていませんでした」

「確かに、俺も・・・あの頃には君とこんな風になるなんて、思わなかったな」
(こんな長い片恋に身を焦がすなんて、思ってもみなかった)

「ですよね」

「本当に、君は立派な女優さんになってしまったね?今日のドレス姿もまた格別に綺
「そうだっ!乾杯しましょう!!!」

(また・・・)

ある時、最上さんは、俺に容姿を褒められるのを故意に避けている、と気付いた。最初はどうしてそんな事を?と理由を考えていたけれど、すぐに止めた。正直、どんなに考えても「不確かな予想」である以上、そのんなものに一喜一憂している暇も余裕も無い。それでも、

(胸が痛い・・・)

本当に痛む胸にそっと手をあて、グラスを差し出し彼女の誘いに応える。

「最上さんの益々の活躍を祈って、乾杯」

「っ、敦賀さんはこれからも活躍されること間違いなしです、乾杯!」

そう言って、グラスを一気に煽った彼女に「ワインをそんな風に飲むもんじゃないよ?」と言おうとしたら、

「LMEコンビ、発見~~~!」

共演者が声を掛けてきた。本当は二人きりで話したいけれど、ここはそうゆう場ではないから仕方が無い。そうして1人2人と人が集まってきて輪が大きくなり・・・自然と俺と最上さんは別の人の輪へと離れて行った。


***


「それにしても、見事なまでに酔っ払ってるねぇ・・・」

社さんが呆れている。

「私、酔ってなんかいませんよ?最上キョーコ、飲むなら乗るな!飲むなら飲まれるな!をモットーに、清く正しく、アルコールとお付き合いさせて頂いてますからっ!」

自信満々?に、最上さんが胸を張っている。

「最上さん・・・君は2次会を辞退して帰ったほうがいい」
「そんなっ!これでも私は準主役ですし、それに一次会のパーティーだってまだ始まったばかりじゃないですか!?」
「・・・いや、パーティーはもう終わりだから。社さん、タクシーを呼んで下さい」
「いえ、本当に大丈夫ですよ?」

『見た目があまり変わらなかったので分からなかったんです・・・』

パーティーの後半、最上さんと一緒に談笑していたユミカちゃんが申し訳なさそうに言っていた。

撮影中に仲良くなった2人は今後の仕事の話などをしていて・・・次々とアルコールの杯を重ねる最上さんに驚いて「そんなに飲んで平気?」と一応、注意をしたそうだ。すると最上さんは「まだ1杯目だから大丈夫だよ~?」と、彼女の前で3杯目を空けながら答え、驚かせたらしい。

恐らく、その時既に、自分が何杯飲んだか・・・記憶も曖昧になっていたのだと思う。監督が中締めの挨拶をした事も覚えていないし、時間感覚がかなり怪しい。

一般に、日本人はアルコールを摂取すると顔が赤くなる。
「酔い」の度合いは顔の赤さ加減で判断されると言ってもいい程だ。でも最上さんは「酔ってもあまり赤くならない」タイプだったらしく、深酒しているのを周囲は気付かなかったようだ。しかも、性質の悪い事に本人に酔っているという自覚が無い。

「本当に大丈夫なんですけど・・・でも社さんや敦賀さんがどうしてもって言うなら、監督にちゃんと挨拶をしてから帰ります・・・」

(そう言って、さっきも監督に挨拶してるんだよ!君は!)

さて、どうしたものか、と思う。
今日は俺もアルコールを飲んでしまったし、そもそも車で来ていないので送る事はできない。タクシーで帰るよう促しても、本人は、帰りません→(説得)→帰ります→帰る前に監督に挨拶します→挨拶中か?挨拶後か?に記憶がリセット→帰りません、と堂々巡りを繰り返していた。俺も社さんも途方に暮れ始めている。

「そうそう、キョーコちゃんは酔ってないよ!大丈夫だよ!!」

「社さん?」

先程まで、俺と一緒になんとか最上さんをタクシーに乗せようとしていた社さんが、急にまったく反対の事を言い出した!?、と思ったら、

「いや~、全く酔ってないキョーコちゃんを酔ったと言い張って絡んでいる、悪るぅ~~いオトコなのは蓮の方だよね~?」

「ちょっ、社さん!?」

突然、俺を貶め始め最上さん擁護に回ったマネージャー。一体、何を言い出すんですか?と焦ってしまう。

「い、いえ、そこまでは・・・でも、さっきから水掛け論ですよね?」

申し訳なさそうに、彼女がチラリとこちらを見る。俺が呆気にとられるいると、さらに社さんが、

「いや~、実はこんな風に蓮が意固地になるのは、蓮が凄く酔ってる証拠、酔い潰れる寸前なんだよね?だからさぁ、キョーコちゃんが蓮を家まで送ってあげてくれないかな~?俺は残ってフォローするから・・・お願い!」

と両手を合わせて、困り顔で最上さんを拝みはじめた。・・・これはひょっとして?

「あー、実はおかしいな、と思ってたんですよ~。敦賀さん、お酒に強いからご自身を過信してるんですよね~?お任せ下さい!ラブミー部の名をかけて、きっちり送らせてもらいます!」

そう言うと、最上さんは、さっさか歩き出して再び困惑顔の監督に挨拶をし・・・今度はちゃんと会場を後にしようとする。

「蓮、キョーコちゃんに送られるフリして、送ってこい」

社さんが、小声でそっと囁いてくる。

「流石・・・敏腕マネージャー」

「押して駄目なら引いてみろって言うだろ?ほら、早く行け、キョーコちゃんもう出口近くに居るぞ!」

「はい、お疲れ様です。あと、よろしくお願いします」

送るはずの俺を置いて行く?と内心ツッコミつつ、慌てて彼女の後を追いかけた。

Misunderstanding

連載の続きをお待ちの皆さま、すみません。短編を思い付いて暴走しました。蓮視点の「Misleading」と対になる、お話です。misleadingは後日掲載します。07/04/23:30誤字修正


『Misunderstanding-誤解』


「螺旋の森」は敦賀さんが二十歳の時に主演を務めた刑事ドラマだ。

あの頃の私は、敦賀さんを大嫌いで。「打倒敦賀蓮!」をスローガンに掲げ並々ならぬ闘志を燃やしていた。けれども、代マネをさせて頂いて、敦賀さんの真摯な仕事ぶりに触れた事が切っ掛けで・・・彼は私が目標とするあこがれの俳優となった。

----そして、今では密かに片思いをしています。

おこがましくも、芸能界一のイイ男、相変わらず抱かれたい男ナンバーワンを連覇する男性に。

(「君は対象外」宣言を高らかにされているのに・・・未練がましく想い続けているなんて、相変わらず私ってば、馬鹿女なんだから・・・)

敦賀さんに彼女ができれば諦めも付く。
そう思うのに、私が二十歳にになった今でも、私の知る限り敦賀さんはずっとフリーで。しかも「新進気鋭の演技派女優」そして「可愛い後輩」として公私ともに結構近い距離にいるせいで・・・全然、諦めが付かないどころか、想いは募るばかり。

そんな事を考えながら、いつものように共演者の女性に囲まれている敦賀さんを少し離れた所から眺めていたら、彼と目が合った、気がした。

----あ

と思った時には「カリスマオーラ」の塊が目の前に立っていて、

「最上さん、お疲れ様」

そう、声を掛けてくれる。

「敦賀さんこそ、お疲れ様でした」

「初めての刑事ドラマを終えてどう?」

「・・・感慨深かったです」

「感慨深い?」

「4年前『螺旋の森』の撮影を見ていた時には、まさか自分も敦賀さんと同じ二十歳で『螺旋の森』に出演することになるなんて、思っていませんでした」

『螺旋の森』

この刑事ドラマは放送終了後も根強いファンの支持を受けて映画化されていた。

今回は映画化第2作目で『螺旋の森-The Movie2-崩壊の日』と題し、警察内部の汚職を題材としていた。相変わらず・・・こんな警官いないから!・・・と突っ込みたくなる位、超絶カッコいい刑事を彼が演じる傍ら、私は、一応、準主役級の女性警官役として出演していた。

今日は、その公開記念の打上げパーティーの日。

「確かに、俺も・・・あの頃には君とこんな風になるなんて、思わなかったな」

「ですよねー」



***



----チャラ

金属音を聞いた様な気がして・・・目を開けて・・・目の前にある自分の右手に違和感を覚える。

(なにこれ?)

見覚えのある銀の輪は、半年間の映画の撮影の間ずっと腰にぶら下げていたモノに似ている。

(手錠だよね?)

なんで?自分の手に?よく見ようと思って手を持ち上げようとすると、くん、と引っ張られて、意図した高さにまで上がらなかった。

(ん?)

不審に思って、対になるはずの銀の輪をみれば、そちらにも手首が嵌まっている。あれ?自分の手ってこんなに大きかったけ?これじゃまるで、男の人の手だわ・・・と思って、その手首の向こう、に目の焦点があって・・・私は驚愕した。

(なんで、敦賀さんがいるの~~~~~~~!!!)

信じられない光景をシャットアウトするため、反射的に目を閉じる。

(お、お、落ち着いて!!え、えっと・・・)

映画の打上げがあって・・・そうそう!!珍しく酔っ払った敦賀さんを、高級マンションまでタクシーを相乗してお送りすることになったんだわ!私はそのままタクシーに乗り続けて、一人暮らしをしている自分のささやかなマンションに帰って、お風呂に入って寝た・・・

(覚えが無い!!)

タクシーに二人で乗りこんだ所までは覚えてる・・・けれど、その後の記憶がない!?

動揺しながらも、そうっと、そうっと、目を開く。目の前には相変わらず敦賀さん・・・寝ているみたい・・・がいて、でも、その先には見慣れた姿見の付いたクローゼット。扉の取っ手にはモーコさんに貰ったお土産の人形がぶら下がっている。

(良かった・・・ウチの寝室だ・・・)

って、良くないよ!!
状況を再度確認するため、右手はなるべく動かさないように、静かに起き上がって・・・クローゼットの鏡に映った自分を見て、息が止まった。

(な、なんで裸!?)

空気が結晶化したような気がした。
肌を取り囲むもの・・・この場合空気しか無い訳だけど・・・それがビシッと音を立てて固まって、私を拘束する。そのまま、思考停止に落ちいり、自分の姿から目を離せないでいると、

目の前がチカっと光ったようになって、信じられない映像が脳内で蘇る。私は、少し前にも、

『鏡に映る自分』

を確かに見ていた。
断片的に蘇える記憶。敦賀さんの上に恍惚の表情で馬乗りになって・・あられも無い・・・嬌声を上げていた。

 -家に送るはずの敦賀さんが自分の部屋にいる。
 -手錠を嵌めて彼を拘束している。
 -私は昨夜、敦賀さんを組敷いて恥ずかしい声を上げていた。

もう、考えられる事は一つしかない。3、2、1・・・と頭の中でカウントダウンが聞こえ・・・

「ギャーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」

私は、あらん限りの声で叫んだ。すぐに叫んだ事を後悔したけれど、叫ばずにはいられなかった。

「うわぁ」

そうして何も知らずに、幸せそうに眠っていた王子様を・・・最悪な形で目覚めさせてしまった。



***



「申し訳ございません~~~」

私は敦賀さんと繋がった右手だけベットの上に残し、体はベット下に落として何とか土下座の形を整えた。もちろん、昨日の失態の許しを乞う為に。

「敦賀さんを襲ってしまった事、謝って許して貰える事じゃないのは分っています!でも謝罪させてください!!」

頭を上げずに・・・ううん、上げられません。暫く、部屋に沈黙が流れる。

「最上さん・・・もしかして覚えて無い?」

その問いかけに背筋が凍る思いがする。酔っ払った敦賀さんを、ちゃんと家に送るといって社さんから預かったのに、まさか、いくら片思いが辛くなったからって、一晩でもいいからって、最初で最後は彼がいいって、自分の部屋に連れ込んで、抵抗できない彼を組敷いて事に及んでしまうなんて、しかも、そんな大それた事をしでかしたのに、それを断片的にしか覚えて無いなんて・・・最低だ。

「昨日は私も酷く酔っ払っていたみたいでっ、前後不覚の敦賀さんを自分の部屋に引っ張り込んで、いくら好きだからってっ、うっ、無理やりなんてっ、今まで可愛がってもらっていたのにっ、信頼を裏切ってっ、ううっ、ごめんなさいっ~~~」

自分の浅ましさに溢れてくる涙を止める事ができない。

「最上さん・・・自分が悪いと・・・思ってる?」

「はい、私が100%悪いです!!いくら、私が敦賀さんを好きだからって、こんな事は絶対に許されません!!」

間髪入れずに誠意をもって返事をする。

「そう・・・」

罵倒される覚悟はできているのに・・・敦賀さんが黙ってしまう。きっと怒りに我を忘れ、言葉が出ないのかもしれない。部屋には、私が鼻水をすする音だけがやけに響いていた。

「あのさ・・・悪いと思ってるのなら・・・責任をとってくれる?」

「勿論です」

「じゃ、責任を取って結婚して?」

責任ニンヲトッテケッコンシテ、責任を取ってケッコンシテ、責任をとって結婚して!? 何を言われたか、私がやっとの思いで理解した時、

「はいぃぃーーーーーー!?!?!?!?!?!?!?」

私は、もう一度、叫んでしまった。



***



「俺・・・童貞だったんだよね」

「嘘!!」

「嘘だなんて・・・最上さん酷いね。君、自分がヴァージンなのに嘘付き呼ばわりされたらどう思う?」

そう、問いかけられて愕然とする。
抱かれたい男ナンバー1の敦賀さんが童貞なんてありえない!!って思ったけれど、そういえば、二十歳が初恋だって、それに、私が知る限り「噂」は沢山あったけれど、実際に恋人がいた事は・・・私の知る限り・・・無かった。

「疑ってすみませんでしたーーーー!」

改めて土下座をしてお詫びするしかない。

「分ってくれて嬉しいよ。俺はね・・・自分の童貞は結婚相手に捧げるつもりだったんだ、新婚初夜にね・・・」

「!!」

今更ながらに、自分がしでかしてしまった事の重大さに愕然とする。わ、私が・・・敦賀さんがずっと守り通していた純潔を酔った勢いで奪ってしまったなんて、最低だ・・・もう、言葉にならない。

「なのに・・・最上さんとこんな事に・・・もう俺は婿に行けない・・・」

「そんなっ、敦賀さん程の素敵な人なら、仮に「使用済み」だって、引く手あまたです!大丈夫です!!」

----ギロリ

敦賀さんに冷たい目で睨まれて、自分の失言に気付いた。

「俺は、もう婿に行けない気持ちなんだ・・・大切なのは、俺の気持ち、だよね?」

「ごめんなさい!おっしゃる通りです!!」

彼の意見を肯定するしか、私にはできなかった。

「だから・・・最上さんが、責任を取って俺を婿に貰ってよ。そうすれば、俺は純潔を失って後ろめたい思いをしながら生きて行かなくても済む」

----何かがおかしいよ!!

と頭の中では警笛が鳴るのに、確かに私が傷つけてしまった敦賀さんのために・・・他に出来る事を思い付けなかった。

「分りました・・・責任を取って・・・謹んで、敦賀さんをお婿様に頂戴いたします」

「良かった」

ほう、と安堵のため息をつく敦賀さんに複雑な気持ちが湧く。こんな形で敦賀さん人生を縛るなんて・・・。少し冷静になって欲しいから・・・

「でも、あの、敦賀さん・・・と私の間では、それで良いのかもしれませんが。マスコミや世間は、私がこのような形で責任を取らせて頂く事を納得いかないと思うのです。女性が責任をとって結婚するなんて、前例がないです・・・」

世間一般がどう考えるかを伝える。今思えば、これは私が敦賀さんの話を聞いて抱いていた「何かがおかしいよ!」という本能・・・が最後に声になった瞬間だったのだと思う。

「そうかもね」

あっさりと肯定されてしまって、理屈抜きで心がチクンと痛む。

「そう・・・ですよ・・・」

だから、犬にでも噛まれたと今回の事は忘れてください、そう喉元まで出かかったけれど、

「大丈夫、俺が責任を取る事にすればいいんだから」

「へ!?」

敦賀さんの、信じられないくらい艶やかな、そして明るい笑顔に、一瞬、面喰ってしまう。

「簡単なコトだよ?君が俺の子供を妊娠したから・・・俺が責任をとって出来ちゃった婚する事にすればいい」

「はい!?」

「だって、夕べ、俺達は避妊をせずに一線を越えてしまったんだから、君は既に妊娠しているかもしれない」

そう言われて、改めて自分の愚かしさに気付く。そして・・・そんな厭らしい考えが自分の中もあった事に今更気が付いてしまう。

(わ、私、敦賀さんの子供を妊娠して、彼に結婚を迫るつもり・・・が無かったなんて言えるの?)

あまりに、自分が情けなくなって・・・敦賀さんの陰りの無い笑顔を直視できなくて・・・思わず下を向いてしまう。すると、止まっていたはずの涙が、じんわり溢れてきて、ポタリ、ポタリと手の甲に落ちてくる。

「ごめんなさい・・・」

情けない事に謝ることしかできない。すると、

「もう・・・観念しなよ」

そう呟いた敦賀さんが、今だ手錠で繋がったままの手を掴んで、引っ張った。
あっ、と思った時には、視界が回ってベットの上に転がされてしまう。

「心配しないで?20代前半の健康な男女の妊娠確率は・・・結構、高いよ?」

そう言いながら、敦賀さんが私に覆いかぶさって来る。何をするつもりなのか?彼の意図を察して私は慌てふためいてしまう。

「お、落ち着いて下さい!ヤケを起こすのは、まだ早いです!!たった1回の過ちで人生を棒にふっちゃいけません!!」

「・・・1回じゃない、3回だから」

「はぅえ!?」

3回って、どうゆうこと!?と私が混乱しながらも、今度はハッキリと意識がある中で進んでいく行為の中、

(童貞だなんて・・・嘘!!彼が口で何と言おうとも、絶対嘘!!!)

と、私は理屈とか証拠とか、そうゆう事を全部飛び越えて、敦賀さんが嘘をついているという確信を得た。けれど、何故そんな嘘を吐いたのか、動機が分らなくて、考えている内に流されてしまい・・・

「ああっ!!!」

敦賀さんに貫かれた衝撃に・・・昨夜の出来ごとの全てを思い出していた。それでも、流される自分を引きとめられなくて、嵐の様な時間が去って我に帰ってから、

「敦賀さんの大嘘つき~~~~~~!!!!!」

盛大に叫んだけれど、それから約3ヶ月後、私は敦賀さんと結婚&妊娠報告会見を開く事になってしまった。

サクラドロップス

本編の終わり部分、誤字を直しがてら、少し表現を修正しました。

LOVE PHANTOM という黒蓮さん@パラレルを書いてギャーとなったので、一発、気分転換に本誌設定の季節物を・・・。タイトルはウタダさんの曲から



<サクラドロップス>

「はぁ~、綺麗~~~」

輝くその瞳は、いつもより少し遅めに満開を迎えた桜を見つめていた。

「セツカ・・・桜、好きだったんだ・・・?」

そう問うた「春の陽射し」と称えられる日本屈指の美男子は、現在その見る影もない。俺は花より酒だ、そんな雰囲気で気だるそうに座っている。本当は、その妹も同質の雰囲気を纏わなければならないはずなのに、満開の桜を前に「素」の姿---平時なら「桜の妖精」と戯れる妄想に浸っているであろう少女の姿が見え隠れしている。

「もちろんよ!「桜」は日本人のIdentityでしょ?」
「お前はイギリス人、だろう?」
「でも、日系だもんっ!!」

ぷぅぅぅ、と頬を膨らませる様子は、いかにもアウトローな装いとは正反対で可愛らしくて・・・。

「葉の無い木に、花が咲いてるだけじゃないか・・・」
「本当にそれだけしか思わないの!?」

まったく、兄さんはジョーチョが足りなさすぎるわ、と妹はぶーぶー文句を垂れている。
ヒール兄妹としてホテル住まいをしている蓮とキョーコは、いつもの様にタクシーに乗り、都内の撮影スタジオに向かっていた。そしてその途中、街路樹の桜が作るアーチの下で信号待ちをしている。

「お客さん、外国の方なんですか?」

タクシーの運転手が声を掛けてくる。見た目は恐ろし気ではあるが、会話の様子から、普通に会話ができる人種だと思われたらしい。

「あ、えぇ、日系なんですけど・・・」
「じゃぁ、いい時期に日本に来られましたね。都内はどこもかしこも桜が綺麗ですよ。お客さんが泊っているホテルのすぐ近くにも穴場があって・・・」
「ホントですか!?」
「ええ、それは見事で・・・」
「・・・」

そんな会話を交わす妹とタクシー運転手を、兄は興味が無さそう見ていた。


***


「う、わぁ~!見て!カイン兄さん!! 凄い凄い!!」

仕事が終わり、黒ずくめの兄妹は、今朝タクシー運転手に紹介された「穴場」に来ていた。
ホテルから歩いて数分の見落としそうな程小さな公園。そこに1本の大きな桜が咲き誇っている。一応、ライトアップらしきものがされていたが、見物客の姿はヒール兄妹以外に無い。

「ね!ね!来て良かったでしょう!?」

本当は面倒くさがる兄に対し、妹は「いいもん!じゃぁ、1人で行ってくるから!!」と駄々をこね「独りでは行かせられない・・・」と、出不精人間を引っ張り出していた。

「きっ、れ~。見ているだけで幸せな気分になりますね~~~」

一日の仕事を終え、ホッとしたのか、いつの間にか、キョーコからセツカの演技が抜け素に戻っている。セツカの姿をしているのに、セツカの演技を解くだけで・・・さっきまで目の前に居た妹・セツカが、カツラを被った最上キョーコに戻る。そんなキョーコの演技に、蓮は感心するしかなかった。

(甘えてくるセツカも良いんだけど、たまには素の最上さんにも会いたいし・・・)

最近、ずっとセツカにしか会っていなかった蓮は、キョーコに合わせて口調を直す。

「そうだね。幸せになれるね。ずっと、このまま見ていたい・・・」

(君の事を・・・)

最後のフレーズは、蓮の心の中でだけ響く音。

「あれ!?実は敦賀さんも好きなんですか?」
「うん・・・でも、カインの柄じゃないから・・・でも、好きだよ、凄く」
「あぁ、あれやっぱり演技だったんですね?日本人なら誰だって桜が好きですよね!」

小さな公園に木を1本だけ植えるなら桜。私でもそうするだろうな、とキョーコは桜を見上げながら考えていた。すると、

「綺麗で・・・一生懸命咲いている所とか・・・本当に好きなんだ」

蓮の声にふとキョーコが振りかえると、そこには柔らかな神々スマイルを浮かべる蓮の姿。あの日、キョーコの心の鍵を一気に吹き飛ばしてしまったものと同じ・・・。

(痛い・・・)

ズキズキと止まらない・・・胸の痛みに、キョーコは蓮に気付かれないよう、不自然にならないよう、そっと胸に手を当てる。

(どうして、また同じようパンチをくらっちゃうのかな・・・・)

蓮の視線に、表情に、「2度と恋などしない」というキョーコの誓いが脆く突き崩されてしまう。その度に、何度も自分を立て直して鍵を掛けなおすけれど・・・こんな苦しい、無駄な抵抗をいつまで続けなければならないのか・・・。

しばし返す言葉を失ってしまったキョーコは、急に「今、黙ってしまっては駄目・・・」そんな根拠の無い危険の様なものを感じ、なんとか会話を続けた。

「わたし、はっ」

上擦ってしまう声。

「私はっ、桜の散り際が好きです。潔くて!」
「そうゆう風に言う人も多いね」
「潔く散るものは美しいんですっ!」

キョーコは、同じような意味の言葉の繰り返し会話を繋いでいく。

「なんだか、諦めの悪い最上さんが言うと、変な感じがするけど・・・」

くすくすと笑いながら、でも俺も・・・桜が散る姿は綺麗だと思うよ、と蓮が言う。桜の方を見やる蓮は、一枚の絵のようで・・・その時、僅かな風が吹いて桜の枝先から花びらが数枚・・・蓮に向かって舞落ちる。

(まるで桜が、敦賀さんに触れたくて手を伸ばしているみたい・・・)

こんな事を考えるなんて・・・ああ、もう駄目なんだ、とキョーコは思う。それならばいっそ・・・

「確かに、私は諦めが悪かったかもしれません。でも、桜を見ていたら吹っ切れましたっ。私も桜と一緒に潔く散ります!!」
「急に・・・どうした?」

不自然に蓮から視線を外し、口調をまるで言葉を吐き出すかのように変えたキョーコに、蓮が訝しげに問うてくる。キョーコは、自分をこんな風に変えてしまった蓮に・・・ほんの少しの恨みを込めて答えた。

「どうしたも、こうしたも、ありませんっ!!私、恋をしてしまいました!
でも、そんな自分を認めたくなくてっ、往生際悪くもがいてました!!私っ、潔く自分の気持ちを認めて、潔くフラれます!!潔く散るものは美しいんです!!」

蓮は、キョーコの突然の「宣言」に唖然とするしかなかった。

(君が・・・恋・・・を?)

「私っ、貴方が好きですっ。ごめんなさいっ、私、今夜はだるま屋に帰りますっ おやすみなさい!」

一気にそれだけ言うと、キョーコは猛然と公園を飛び出していく。

(!? 今まで・・・際どい接触にも、顔色1つ変えてくれなかった君が、俺に、恋?)

「信じられない・・・」

そう呟いて、その場に立ちつくしていた蓮の目の前で、

----ざざ

一陣の風によって、花吹雪が吹いた。

(散らないでくれっ!)

蓮は咄嗟に桜に願う。そして、舞い落ちる花びらを見つめながらもう一度、

(俺への気持ちを、勝手に散らさないでくれ!)

飛び出して行ってしまった、少女に願う。そうして、全てを悟ったかのような表情をみせた黒づくめの男は、キョーコの走っていた方向に走り出していった。

FIN.




この続きは、一呼吸置いてから、「続きを読む」へどーぞ。


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プロフィール

Author:Agren
本家のストーリの進行のじれったさに、素敵な2次小説サイトを巡って熱を冷ましていましたが・・・とうとうを自分自身で妄想を開始しました。
2次は愚か、小説初挑戦です!



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