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LOVE PHANTOM(35)

SIDE KYOKO

「道に迷わなかった?」

私はわざわざマンションに訪ねてくれた奏江をリビングに案内しつつ声を掛ける。彼女は卒業後、研修を受けて弁護士資格を取ったものの、国家公務員も試験を受けて経産省のお役人様になっていた。

『お金を扱うの好きだし』

そう就職先を告げたのは照れ隠し。優秀な親友が弁護士に比べて激務の割に薄給の職を選んだ理由は分っている。チャップリンの名言『人生に必要なのは、勇気と想像力。そして、少々のお金』ではないけれど、国の経済を上手く回す事は、多くの人を幸せにできると彼女が考えているのを・・・私は分かっている。

本人にそう言うと嫌がるけれど彼女は正義感が強く、人の役に立つ事が好きなのだ。

「駅前のタワーマンションって言ったらこれしかないもの、迷いようが無いわ」
「確かに、目立つものね。あ、適当に座って?」

ソファを指し、自分は用意してあったお茶菓子を取りにキッチンへ向かう。

「それにしても凄い所に住んでるのね?都内の一等地で、ワンフロアを占有する最上階の部屋って何億するのかしら?一人・・・今は二人暮らしだとしても贅沢だわ」

部屋ぐるりと見渡す親友が感心したように溜息を吐く。

「あー、蓮はアメリカ育ちだから部屋が狭いのは苦手なんだって」

泰江の隣に腰をおろし、コーヒーとケーキを並べた。

「だからって、皆が広い家を買える訳じゃないわよ?」

そう言われ・・・確かにこの立地でこの広さの部屋を買ったら億の単位になるのだと今更ながらに実感した。蓮は学生時代から一人暮らしするには広い部屋に住んでいたし、部屋の広さは彼の唯一とも言える衣食住のこだわりだったから、あまり深く考えなかったけれど。

(蓮が経営している会社は順調みたいだから分不相応な住まいじゃないんだろうけど・・・)

キングサイズのベットが余裕で置ける寝室にゲスト用の寝室、トレーニングルームに書斎、そしてホームパーティーを開いちゃいって下さいっ!って言わんばかりの広いリビング。でも、いつも余裕綽々という雰囲気の彼が何かを無理をして買うなんて想像できない・・・

「それにしても、いきなりで驚いたわよ?」

泰江がすっと、私に金縁で彩られたハガキを差し出した。それは、

----私と蓮の結婚式の招待状に同封された出欠ハガキ。

奏江らしい綺麗な字で、「喜んで出席させて頂きます」と書き添えてある。

「この前、食事した時には何も言ってなかったのに・・・連絡が取れないと思ったら、いつの間にこんな事になってるし!今日は洗いざらい、全部吐いてもらうからね!!」

私はハガキを受け取りながら、

「うん、私も急展開に驚いてるっていうか・・・」

と、どう説明すればいいのか考え始めた。

----どうして、こうなったのだろう・・・?

最初は、蓮に「暫くここに居たら?」と言われたのだ。

私は、少しの間だけ蓮のテリトリーに居させて貰おうと思ってその話を受けたら・・・蓮が「引越しラクチンパック」なる物を手配し、なんと翌々日には私の荷物が全て蓮の家に運び込まれて開梱されていた。

どれくらいの期間か分からなかったけれど、蓮の部屋で寝泊まりするのは、気持ちが落ち着くまでの一時的なものだと思っていたのに・・・

----それからなし崩しに約1ヶ月。

『不破自動車』

もう「地雷」ワードを思い浮かべても、私の心は凪いだままで居られるようになった。それらは、白い鉄壁の向こう側・・・決別した過去の世界。

私の新しい世界は、蓮を中心に展開し始めた。だから、というか、彼に愛想を尽かされる前にちゃんとしようと思って、そろそろ自分の部屋に戻ると言ったら、部屋に大寒波が訪れたのだ。暖簾に腕押し、取り付く島もない、というのはまさにあの時の蓮。

でも私は気がついてしまったのだ。無理のある言い訳で有給をもぎ取って仕事を休み、自分は何をしているのだろうか?と。客観的に事実だけを見れば、元彼とヨリを戻し、毎夜愛欲に溺れて昼過ぎまで惰眠をむさぼる・・・言い逃れできない、爛れた日々を送っている事を・・・私だけが。

蓮は毎朝仕事に出かけている。私も、真っ当な日常を取り戻さなければならない、そのために、

「未婚の男女が一緒に住むっていうのはっ、ど、同棲は破廉恥で不品行な事なんです!!」

叫ぶように訴えた。

「言ったね・・・じゃあ、キョーコの中では婚前交渉・・・未婚の男女の性行為は破廉恥な事にならないの?」

予想外の反応に、え?、と口をあけるしかなかった。

「ねぇ、どうなの?」
「え・・・っと、その、破廉恥・・・です」

話の方向性が見えず、でも、不穏な先行きを感じて狼狽していたら、蓮の大きな両手でがしっと顔を掴まれた。

「それに、この間、破廉恥であるところの婚前交渉している時に、すごく破廉恥な事・・・この口で言ったの、覚えてる?」

そういって、つつつ、と唇を親指で撫でてくる。

「キョーコは『早く、蓮の<<ギャーーーー(注:キョーコの叫び声)>>ちょうだい』って、言ったよね?」

怪しく微笑む蓮が・・・怖くて、目が合わせられない。視線を合わせようとしてくる彼から・・・顔を押さえ込まれているので、瞳だけはウロウロと上下左右に逃げまくったけれど・・・そんな事をする暇があるのなら、耳をふさげばよかった・・・

「言ったよね?思い出せないなら、もう一度、前後の会話も含めて一字一句繰り返そうか?俺の記憶力知ってるよね?」
「そ、それはっ、蓮が言わないと・・・そ、そのままだって・・・私は言いたくなかったのにーー!!」

(うわぁーん、誰でも良いから、た す け てーーー!!!)

私は心の中で叫んだ。

「へぇぇ・・・今の発言で品行方正なキョーコさんは、破廉恥で不品行な婚前交渉を自ら欲していた事を認めましたね?」
「い、今のは悪質な誘導尋問ですっ!」

もう、混乱して何が何だか分からない。

「認めてあげる、では別の質問を」

蓮の次の言葉を聞かされる・・・この時の私は・・・今まさに包丁が当てられた鯛on theまな板だった。

「被告は同棲して婚前交渉をするのと、別居して婚前交渉をするのと、どちらがより破廉恥だと思いますか?」

私、いつの間に被告になったんだろう?一体、蓮は、裁判長然として何をそんなに怒っているんだろう?そんな事を思いながら、私は視線を足元に落とし、

「すいません、質問の意味は分かりますが、答えは分かりません・・・」

正直に答えた。どちらも五十歩百歩・・・というか、こちら、と答えられる問題なのだろうか?

「正解は、別居して婚前交渉する方です」

なのに自信をもって「正解」言いきる蓮。自然と、

「何故ですか?」

と問いかける。

「同棲では生活を共にするので、相手の良いところも悪いところも見て・・・将来の結婚生活をイメージする事ができます。一方、別居状態はお互いに表面を取り繕う事ができます。うわべの付き合いをしながら性交渉を持つと言うのは、単に、性の相性を試すとか、快楽を目的としているわけです。どちらがより乱れているか・・・明らかですよね?」

畳み掛けるように言われて理屈が通っているんだか通っていないんだか分からない。いや、微妙に・・・とは思うけれど、とりあえず蓮に勝てる気がしないので、

「分かりました」

と、私は返事をした。

「だからね?分かるでしょ?」

(・・・何がですか?)

と、今度は口に出さずに心の中だけで問いかけた。分りました、と答えた手前というのもあったし、いい加減、この訳の分らないプチ針のムシロ状態を脱したかった。

「性交渉は結婚したら当たり前。同棲は結婚を視野に入れた大事な見極め期間。ほら、破廉恥な要素がどこにも無い」
「えぇ!?」

(い、今、話が、論理が飛躍しなかった!?どこ、とは直ぐには言えないけれど・・・)

一生懸命、反論を組み立てるけれど、その前に、

「キョーコはとても、貞淑で純潔を大事にする人だ。そして、俺も遊びや気まぐれで女性と付き合ったりはしない」

蓮が、私におでこに軽く触れるだけのキスが落としてくる。

「最初、さしたる抵抗も無く俺を受け入れてくれた事、一緒に住む事にYesといってくれた事、キョーコは遊びや気まぐれではしないでしょ?ちゃんと、将来も視野に入れた相手とじゃないと出来ないでしょ?」

「それは・・・」

私は不破の伯父さん事がショックで誰かに縋りたくて・・・たまたまそこに居合わせたのが蓮だっただけで。毎晩のように彼としている事だって何となくそうゆう流れが出来ていると言うか、むしろ、あの超色っぽい流し目で「おいで」と言われると・・・いつの間にか手を取っているのだ。

「キョーコは、俺と一緒に居たい、って・・・思わない?」

その言葉に、不意にずっと昔・・・蓮と手を繋いで・・・ずっとこの手を繋いで居られますように・・・って、願った事を思い出した。

----私は蓮にフラれてから他の男の人に心が動いた事は一度だって無かった。

あれから私は勉強や仕事に没頭して・・・地味で色気の無い格好をして自分の中から女を消していた。でも、蓮とまた会えると分って・・・私は彼の気を引きたくて、彼が贈ってくれた彼好みの服を引っ張り出してきて、丹念に化粧をして唇にグロスを乗せたのは・・・濡れたような唇を彼に見せたかったんじゃないの?

----自分は女だと彼にアピールして・・・どうしたかったの?

自覚した途端、顔が急激に熱を持ちはじめる。 何だか、同棲云々以前のレベルで自分が救いようの無い破廉恥な女であるような気がする。それに、この熱が、私の顔に添えられた彼の手を伝わっていると思うと・・・くらくらする。自分が情けなくて、疚しくて、この場所から一刻も早く逃げ出したくなった。

でも次の瞬間、蓮の手に力が籠り、私は顔を上げさせられ・・・まともに蓮と視線を合わせてしまった。

----DNAレベルで神の恩寵が組み込まれた、素晴らしすぎる容姿と才能に恵まれた彼。

その彼が真っ直ぐに私を見つめていた。そう、彼が相手なら・・・お天道様に顔向けできない事は何もない様な気がしてくる。だからするりと、

「ずっと、一緒に居たいよ?」

と自分の気持ちが出て来た。すると、私は蓮の懐に仕舞い込まれるように抱きしめられて・・・

「キョーコ、結婚しよう。ずっと一緒にいよう?」

そうして・・・私からの別居の申し出は・・・いつの間にか婚約生活の始まりへと変貌を遂げていたのだった。


***


「キョーコ!!」
「あ・・・」

奏江の声に我に返った。

「なんか百面相しながら急に青くなったり赤くなったり・・・相変わらず、不気味だわ」
「不気味って!?私のガラスのハートは真っ二つだわ」
「ガラスねぇ・・・無色透明なのは認めてあげるけど、アンタのハートの素材は強化プラスチックよね」
「そんな中途半端な譲歩・・・」

いつもの調子で軽口が続く。

「で、いつ敦賀さんに再会したのよ?」
「えっと・・・二か月前、位?」
「はぁ!?それで、もう、この招待状!?まさかとは思うけど・・・・・・デキ婚?」
「ちがうよ!ちゃんと避妊してるって・・・」

そこで、はたと気が付いた・・・時には遅かった。

「ふーん、する事はしてるんだ。あんたも大人になったのねぇ・・・敦賀さんが初めての相手かぁ・・・どうだった?」

どうして、皆、こうゆう事を白日の下で話題にできるのか分りません!!

「黙秘します!!」







へ理屈・蓮様。
奏江さん、招待状を受け取って直に自宅まで飛んできました。

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LOVE PHANTOM(34)

SIDE KYOKO

目を開けたら、綺麗に整えられたベットが見えた。

皺ひとつない枕。きちんと折り込まれ整えられたシーツ類は、目の前のベットがメーキングされたままの状態だと告げている。そして自分は目の前と同じ配色のカバーが掛けられたベットに横になっていて・・・そこで今まで自分が寝ていた事に気が付いた。

(ここ・・・どこ?)

寝覚めで動きが鈍い頭を叱咤し、再び部屋を見渡す。間接照明で柔らかく照らされている部屋は、生活感が無く、まるでホテルのツインルームのようだった。

(出張中だったけ?)

一生懸命、自分がホテルで寝ている理由を思い出そうとするけれど、思い出せない。頭が鈍く痛むし、何だか喉や体の節々が痛い。風邪の引き始めのような症状に、またやっちゃった?、と思う。

初めて出張してビジネスホテルに泊まった翌日、部屋の乾燥のせいで喉を痛めて風邪をひいた。
擦れ声で出席した打合せは散々で・・・それ以後は、ちゃんと乾燥対策をしていたのに・・・

「あーもー」

私は呻きながら、取りあえずサイドボードに置かれている時計を手に取とった。

「に、20時!?」

時刻を確認して唖然とする。一体どうして、こんな変な時間なのか?
慌てて飛び起きて・・・飛び起きようとして・・・足がもつれてベットとベットの間に頭から転がり落ちた。

(痛ったー)

咄嗟に体を捩ったため、顔面殴打は免れたものの、ここまで無様に転ぶとまるで何かのコントのよう。
はは・・・と乾いた笑いを零しながら、しばらく床に転がっていると、いきなり体が浮き上がった。

「大丈夫?」

気が付けば、抱き上げられていた。そうして、ゆっくりとベットの上に下される。この、身体に回される腕の感触、香り・・・そして声には覚えがある。

「向こうのベットを綺麗にしようと思って、取りあえずゲストルームに運んだんだけど・・・」

かけられた言葉を聞きつつ・・・ここはホテルじゃなくて、元彼の、蓮のマンションだということを思い出した。それから、ここで起こった事も鮮明に。彼の視線を感じるけれど、顔を上げる事も言葉を返す事も出来ない。

(わ、わ、私、な、な、何てコトを!?いくら昨日は、気が動転していたとはいえ・・・)

そこで、ドクンと不自然な程に心臓が脈を打つ。私は昨夜、気が動転していた。父とも慕っていた叔父からの信じられない言葉を聞いて。その言葉を思い出したくないのに・・・それも、思い出してしまう。

『君の母親も結構使えると思っていたけど・・・君もやるね?』

外出先では酔うまでお酒を飲まない叔父さんが、珍しく酔っていると思ったら・・・唐突にそんな事を言い出した。

『今回、キョーコちゃんは大活躍だ。RT-Flowの契約は君と敦賀社長が知り合いだったから纏まったようなものだからね、君の東都大卒の肩書はこれからも大いに役に立つだろう。君の母親の事も便利だと思っていたけれど、早々に擦り切れて使えなくなってしまったから。でもこれからは君が代わりになって・・・」

----そこから続いた、母を貶める言葉は本当に思い出したくない。

私は思考を無理やりにでも終わらせるために、ぶるぶると頭を振った。すると、

「キョーコ、目を逸らすんじゃなくて、白いペンキを塗ってごらん?」

直ぐそばに座っていた蓮が唐突にそんな事を言う。

「・・・ペンキ?」

意味が良く分からず聞き返せば、

「嫌な事を思い出しそうになったら、白いペンキで、目の前を塗りつぶすイメージを思い浮かべるんだ。さあ、目を閉じて・・・やってごらん?」

そう言いながら、蓮が素早く私の目元を手で覆ってしまって・・・私は逆らう理由も思い付かず、彼の言葉に素直に従ってみた。白いペンキ・・・

「キョーコの目の前には真っ白いペンキの入った缶がある。それは、どんなに濃い色でも塗り潰す事ができる魔法のペンキで・・・一振りで、すごく広い範囲を塗りつぶせるんだ・・・ほら、どんどん、白くなるだろう?・・・目の前が、白くなっていく・・・もう、殆ど真っ白になった・・・まるで、新品のキャンバスみたいに真っ白だ・・・」

私は、頭の中をペンキで白く塗り潰していくような想像をして、何とか言われた通りのイメージを作り出していく。

「そして・・・キョーコは目の前にできた真新しいキャンパスに、絵を描くんだ。まず最初は・・・」

その先の言葉を聞く前に、身体が仰向けに引き倒された。

(・・・!?)

驚いて目を開けば、視界いっぱいに艶然とした笑み浮かべた端正な顔。

「蓮・・・」

思わず彼の名前を呼んだのは偶然なのか、必然なのか。

「俺の事を思い描けばいいよ・・・」

それから、また何度目かになる・・・蓮と身体を重ね合わせた。徐々に不鮮明になる意識の中、

(私はもう、不破自動車とは関係なく生きて行く)

そう決意する。今まで、私は「母の跡を継ぎ、不破自動車の利益を最大化する」プログラムで動いていた自動人形のようだった。でも、これから私は自分で自分を作る。自分という新しいキャンパスに自分で絵を描くんだ・・・まずは最初に蓮を。次に・・・何を描いていこうか?

『空っぽの君を俺で埋め尽くしてあげる』

彼が言った言葉をぼんやりと思い出しながら、しばらくは蓮があれば良いか・・・白み始める意識の中、それを最後に蓮の事以外を考えられなくなっていった。





・・・黒蓮。

32.5ついて:追記1129

再掲載しました11/29 ボリューム2倍。なんと1万字越え・・・なんてこった・・・

パスワードヒントー1

ラブファンは、B'zの歌を連想させる言い回しが使われています。ということで。32話のモチーフになっている歌のタイトルが32.5のパスワードです。ブロ友の方も読めます。そして近いうちに、アメブロの方にパスを公開します。

パスワードヒントー2

パティシエキョコさんの巻の最終頁(印刷所の名前とかが書いてある頁)に含まれる単語がヒントです。そのものではないです。

パスワードヒント?-3

アメーバのIDはBgrenです。

読まなくてもストーリーの理解に影響はありません。SKB一周年記念という名の自己満足です・・・。そして、相変わらず、長くて、ねちっこいです。

LOVE PHANTOM (32.5ura)

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LOVE PHANTOM(32.5表)

時系列的には32と33の間のお話です R12位? 

SIDE REN

神楽坂からタクシーに乗りこみ、自宅に向かう。
キョーコをしっかりと腕に抱き、その感触に酔いしれながら・・・。

もう絶対に手放さない。

学生時代の俺は、キョーコの幸せを願い、キョーコの夢を叶える事ために力を尽くし、キョーコが大切に想う全ての物を自分も尊重したいと思っていた。一方で、彼女に感じる独占欲や嫉妬心はキョーコを自分から遠ざけるモノだと嫌忌し、聖書が語るような理想的な『愛』を彼女に捧げようと努力していた。

俺は、修道士にでもなるつもりだったのだろうか?

彼女が欲しいという欲求を原動力に、欲しいという気持ちにブレーキを掛ける。その矛盾した仕組みを人は理性と呼ぶのだろうけれど・・・それが過ぎた自分は、自壊したのだ。間抜けにも程がある。

そして、彼女に別れを切りだし・・・彼女は去った。俺はその現実を受け入れられず、また逃げたのだ。リックの時と同じように。しかし、今回もやはり時間が解決してくれたらしい。街で偶然キョーコを見かけたのは、ちょうど俺の中で答えが出た頃合い・・・やっぱり運命だったのだと思う。

彼女を一目見て気が付いた。

人を好きになる・・・大勢の中から「この人が良い」と選ぶ・・・その時点で、俺のキョーコへの気持ちは綺麗事だけでは済まなくなっていたと言う事を。

つまりは。俺の心を彼女が占めているように、彼女にとっても俺以外の人間は「その他大勢」になればいい。俺以外の男に、彼女の心が一片たりとも割かれるのは我慢できない・・・そうゆう感情は、とても自然で人として当たり前だと言う事を。

----力のある雄が他の雄を駆逐して、自分の気に入った雌を囲う。

人間はそうゆう本能を持つ生き物だったはずだ。

「苦し・・・」

キョーコが腕の中で身じろぎをした。つい、俺の腕に力が籠ってしまったようだ。

「あぁ・・・ごめんね?」

彼女の訴えに、少しだけ腕の力を緩める。すると、

「ううん・・・私こそ・・・私、また蓮に頼って・・・また、迷惑を掛ける・・・」

そう言って、俺に縋りついていた腕を解き体を離そうとする。それを、俺は再度キョーコを腕に抱き込むことで阻止した。

「迷惑じゃないよ。キョーコの事をそんな風に思った事なんて一度も無い。だから、余計な心配はしなくていい。余計な事は考えないでいい」

何も考えなくていい・・・何も考えないで・・・何も考えなくなる。

俺は彼女に暗示を掛けるかのように、頭や背中を優しく撫でながら、囁きかける。するとキョーコの身体から力が抜けていき・・・程なくして彼女の寝息が聞こえ始めた。




SIDE KYOKO


蓮の腕の中は相変わらず温くて気持ち良かった。

過去、数回しか入れて貰った事がなかったけれど、私はその感触を覚えていて・・・体の中を駆け巡る温かい何かは、私の悲しみや恨み、不破家に裏切られた事に対する暗い気持ちを溶かしていく。

「余計な事は考えないで・・・」

さらに、優しい蓮の声に従って・・・私は素直に頭の中を空っぽにする。すると心の緊張が、絡まった糸の様なものが、プツリ・プツリと切れるように解けていく。

(蓮の香り・・・変わってない・・・)

それがとても嬉しくて・・・安心できて・・・そういえば、夕べ、私は蓮の事を思い出してしまい一睡も出来なかったな・・・そんな事を思いながら、そのまま暖かい場所で意識を手放してしまった。


***


突然の状況変化に、頭が付いていけなかった。

ついさっき・・・私は蓮の腕の中で気持ち良く眠りに落ちたはずだった。しかし、パチリ、と突然目が覚めたのだ。すると目の前には人の顔。始めは距離が近過ぎて焦点が合わなかったけれど、すぐに、長いまつ毛に縁取られた形の良い目が誰のものか気付いた。瞼が閉じていても分かる、彫りの深い造形は彼しかいない・・・そして、これは・・・

(もしかしなくても、キスされてる!?しかも、うんと大人のやつーーーー!!!)

もう、私も20代半ばでいい大人なのにと、自分に突っ込みを入れつつも、私にとっては未知との遭遇。
昔、数回だけ蓮としたキスは、こんなんじゃなかったのだ。そっと唇を合わせ・・・その後は、ちゅっちゅっと唇を啄ばまれるようなものか、はむっと唇を全体をかるく咥えられるようなもの。こんな風に、口中を舐め回すようなキスは、くちゅっ、と、水音が脳に響くようなキスは・・・噂話でしか聞いた事しかなかった。

(でも、そんな事はどうでもいいです。それよりも重大事件発生の予感です!)

背中の産毛がぞわりと逆立つような感覚。本当は背中だけじゃない。全身の皮膚が・・・服を着ている感触を伝えてこないのだ。

しかも、ささやかな私の胸には意思を持って動く手。下から持ち上げるように、円を描くように、まるで子供の粘土遊びのように、私の胸の形を変えることを楽しんでいる様に動いていた。もちろん、それは私の手ではない。

(うう・・・これは、どう見ても、キスされながら胸を弄られています。しかも裸で・・・)

私は魂が半分身体から抜け出して、自分の状況を客観的に観察しはじめていた。これが貴重な幽体離脱体験・・・と、現実逃避していた私を、体の中に連れ戻したのは蓮の声。

「起きた?」

普通に、本当に普通に声を掛けられる。でも、少し遠ざかった蓮の顔は、始めて見る表情を湛えていた。

(夜の帝王!?)

少し細められた目からは、視線だけで人の心を支配できそうな力を発しているみたいで。しかも、その口から語られる言葉は絶対の真理。逆らう事が許されない至上命令・・・そんな風に思うなんて、馬鹿馬鹿しいと思うのに、それをどこか完全に否定できない自分がいる。何か、決してお天道様には顔向けできない何かミエナイチカラが干渉しそうな気がしてならないのだ。

(怖い・・・凄く)

私は心の中で一斉に白旗を挙げた。すると、じっと私を見ていた蓮が

「抵抗しないの?」

と聞いて来た。今の彼に抵抗なんて・・・逆らうなんて、とんでもない。訳の分からないプレッシャーに、

「しない・・・」

と即座に恭順の意思を示すと、プレッシャーが少しだけ和らいだ。

「勝手に服を脱がしちゃってごめんね?あの服、贈った時から自分の手で脱がせたいって思っていたから、堪らなくて・・・」

(何だか、凄いこと言われたような・・・)

謝っているのか開き直っているのか、分からない・・・そう、心の中だけでツッコミをいれていると、

「大人しく身を任せてくれるのなら、優しくしてあげるから・・・」

蓮が私の耳に唇を寄せそう囁いた。それはまるで戒めの呪文のようで・・・私の体は、おかしな程、力が入らなくなってしまった。





続く・・・あー、じらしてすみません・・・キョコさんに贈った服を脱がせたかった、と蓮さんに言わせたかっただけの回
プロフィール

Author:Agren
本家のストーリの進行のじれったさに、素敵な2次小説サイトを巡って熱を冷ましていましたが・・・とうとうを自分自身で妄想を開始しました。
2次は愚か、小説初挑戦です!



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